模試でいつものように高偏差値を出す
タカヒロ先生が、結果をほめる
先生「ユウイチ、君は勉強よくできるねえ。すごいなあ」
生徒「・・・」
先生「何だ? 悪いことでも言ったか?」
生徒「あのう、先生、それ、僕をほめてるんですか?」
先生「そうだけど?」
生徒「あのですね、僕は小学生の時から勉強ができます。先生からも親からも、ずっとほめられ慣れているわけです。いまさらほめ言葉をもらっても、正直うんざりです」
先生「・・・」
生徒「たとえばキムタクに「ハンサムですねえ」と言ったら、キムタクはどんな顔するでしょうか? 「またかよ」とウザがるでしょう。できる子に対するほめ言葉って、難しいんですよ」
先生「・・・」
生徒「あなたの職員室の机に『子供はほめて育てよう』という教育書が置いてありましたね」
先生「ああ」
生徒「あなたがどんな本から影響を受けているか興味があったので、それと同じ本を書店で立ち読みしたんですよ。そしたら本に「教師は子どもに、ほめ言葉の花束を与えよう」と書いてありました。あなたは本に影響されて僕をほめた。でも、あなたのほめ言葉は「君は勉強よくできるねえ。すごいなあ」でした。どこが言葉の花束なんですか? あなたが吐く言葉、つまんなすぎませんか? 花どころかカビですよ」
先生「・・・」
生徒「あなたのようなタイプは、『子どもはほめて育てよう』という本を読めばほめる。逆に『ガキはガツンと叱れ!』という本なら叱るんでしょう。定見がない。教育評論家の無責任な教育本や、自己啓発本ばかり読んでる人は、本に流されやすいんですよ。あなたがまさにそうです」
先生「ちょっと、言葉がすぎないか?」
生徒「待って! もう一つ言わせて下さい。あなたは学生時代、文学や哲学の本を読んでいませんね。だから「君は勉強よくできるねえ、すごいなあ」というアホ丸出しの言葉しかかけられない。学生時代に狭いコミュニティの中で過ごしていたせいです。言葉を外部に向けて磨いてこなかった。そのツケが一気に出たようですね」
先生「・・・」
生徒「もっと若者の心を動かす言葉ってあるでしょうが。言葉の才気と、心底の真心を兼ね合わせたようなほめ言葉が。僕のように、ほめられることに慣れた生徒を酔わせるほめ言葉、考えて下さいよ」
先生「じゃあ言うぞ」
生徒「どうぞ」
先生「お前は勉強を愛し、勉強の神様にも愛されている」
生徒「はっ?」
先生「お前は勉強を愛し、勉強の神様にも愛されている」
生徒「あのぅ?」
先生「なんだ」
生徒「アナタ、学生時代変な宗教にはまったでしょ?」
先生「俺は新興宗教とは無縁だ」
生徒「そういう言葉のレトリックに酔った、クサい台詞は最悪です。言葉が先に立って、心が追いついていない。何が「お前は勉強を愛し、勉強の神様にも愛されている」ですか。神とか愛とか言葉を使う人に、ロクな人はいない」
先生「あのなあ、ほめてるんだから感謝しろよ。ほめてこれだけ非難されるのは、やっとれんわ」
生徒「それはあなたの傲慢さです。あなたはおそらく、ほめたら僕が喜ぶと思ってほめたんですよね。でも僕はあなたを尊敬もしていないし軽蔑もしていない、中間層の教師です。だからほめられても少しも嬉しくない。あなたは自分がほめ言葉をかけたら生徒が喜ぶと考えたわけでしょ?それは自己評価高すぎです。ほめられて嬉しいのは、尊敬した人にほめられた時だけです」
先生「・・・」
生徒「僕が尊敬しているヤマギワ先生から「お前は勉強を愛し、勉強の神様にも愛されている」と言われら、僕は喜ぶでしょう。ほめ言葉なんて、何を言うかではなく、誰が言うかが大事です。恋愛といっしょで、あなたにほめられても興味がない女子から好きですと告白された時と同じ気分で、どう対処していいかわからない」
先生「・・・」
生徒「人をほめるには、それなりの資格がいるんです」
先生「・・・」
生徒「しかも、今日のあなたのほめ方は、生徒をほめてる自分が美しいというナルシスト臭がしましたし、言葉も軽い。だから腹が立ったので、言わせていただきました」
先生「・・・」
生徒「どうして怒らないんですか?」
先生「えっ」
生徒「これだけ生徒から生意気な言葉かけられて何も言わない。たとえば僕がもしサラリーマンになって今日のような言い方を上司にしたら、一生組織で塩漬けですよね。教え子の将来を考える教師なら、ガツンと言うでしょう。あなたは反論もできず黙っているだけ。情けないなあ。生徒への愛が足りない」
先生「う=====」
生徒「どしたんですか?」
先生「うっ、うぬぼれるな。誰がお前のような生徒をかわいがるか。俺はお前が今日みたいに生意気ことを誰かに言って、破滅するのが楽しみなんだよ。かわいい奴には注意するわ。命かけてね。だがお前のような奴はスルーだ。将来地獄を見ろ」
生徒「僕はそんなへまはしません。人を選んで言いますから」
先生「俺をなめんな。じゃあ今、お前に地獄を見せたる。俺がペナルティを与える。お前、あとで職員室まで来い」
生徒「ははは。そうそう。それがあなたの本性です。どの教育書に、問題ある自分に逆らった生徒に対して「あとで職員室に来い」と脅すと書いてありましたか? 理性より感情が先に立つ。最低のやり方ですね。善人に化けるならもっとうまく化けないと」
先生「なにおっ」
生徒「あなた、教育書を見ていい先生を演じるんなら、最後まで演じ切りませんか? もう化けの皮がベロリと剥げてる。耐用年数が短い化けの皮ですねえ」
先生「いまのうちにほざいとけ」
生徒「・・・」
先生「どうした、突然黙って」
生徒「先生」
先生「何だ?」
生徒「あなた、僕のこと嫌いだったでしょ。今日の会話の前から」
先生「そんなことはないが」
生徒「いや、それはわかります。生徒は自分が先生に好かれているか嫌われているか、見抜きますから」
先生「・・・」
生徒「あのですね、本当に好きだったら、怒っていても愛情が伝わるし、ほめていても無関心が伝わる。まあこれは僕の尊敬するヤマギワ先生の言葉ですが」
先生「・・・」
生徒「とにかく、軽々しいほめ言葉で、嫌いな生徒を愚弄して、人をバカにすんのやめてくれませんか? 偽善者教師は吐き気がするね」