猫ギターの教育論

尾道市向島の塾「US塾」塾長のブログ 早稲田大学・開成高校出身 本音が飛び交う、少し「上から目線」の教育論
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スグルの大学受験(3)
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    スグルは、高1から高2になるにつれ、成績を大幅に伸ばしていった。高校でもビリから中の上まで伸びた。模試のグラフは明らかに上昇傾向を示していた。精神的な安定が、成績にも比例した。
     

    彼が高2の1月、私は足の病気で入院した。代理の人間が塾を守ってくれたが、私が塾にいる時のような緊張感は保てない。大学受験まで1年、ダッシュをかけなければならない時期なのに、途方にくれた。
    そんな私の不在時に、スグル君が映像授業を見ているとき、塾生の女の子にちょっかいを出したというタレコミがあった。
    病室でものすごく不安になった。私の入院が彼の緊張感を奪っている。病院の先生に外出許可を得ようとしたが「せっかく手術したのに、何もかもが台無しになります」と断られた。

    スグルに言いたいことが山ほどある、心は焦るのに身体は動かしてはならない。私はスグルを尾道市民病院の病室に呼んで説教した。電話やメールではなく直接言いたかった。病院のベッドで点滴中のパジャマ姿で、私は彼を30分ぐらい説教した。舞台装置が大げさだが、病室で説教したら言葉に重みが増すだろう。私の執念を彼に見せたかった。彼は神妙に聞いていた。彼はそれから、表裏なく勉強するようになった。




     

    しかし、彼は整理整頓が苦手だ。彼の自習室の専用机にはテキストが雑然と置いてあり、学校の先生が刷ったプリントがティッシュといっしょに散らばり、坂口安吾の書斎みたいだった。
    同級生のコウタロウは清潔好きで整理がビシッとしている。コウタロウが整頓ならスグルは混沌だ。
     
    もし、彼の性格を動詞にして、辞書の見出し語にしたら、こうなる。 
     
    すぐ・る【優る】”盖い激しいさま・同時に複数の女の子とつきあうさま ◆覆爐つく人を)蹴り飛ばすさま 紙や本を散らかしっぱなしにするさま・整理整頓ができないさま 
     
    そのあたりの整頓能力のなさが、今後の受験勉強の行く末に影響を与えないかと危惧した。
    また、彼は野球部だ。7月までは本格的な受験勉強はできない。広大・岡大に行くには、いかに野球と並行して勉強量を維持するかが決め手となる。 
     
    しかしスグルは本質的に、勉強はあまり好きではない。国語が嫌いで本を読むことが苦手なので、参考書を積極的に開いたりはしない。ふだんは明るい男だが、勉強中はマラソンの谷口浩美みたいな苦悶に歪んだ顔になっていた。
    高校生になって、成績がブレイクする子の大部分は読書好きな子が多い。なぜなら本を読む力は、そのまま受験参考書を読解する力につながるからである。
    読書好きの子はマックシェイクを飲む太いストローで参考書から知識を吸い込む。逆の場合はユンケルの細いストローでしか知識を得ることができない。勉強が息苦しい。スグルは、ユンケルのストローを必死に吸いながら勉強していた。
    受験が終わったあと、スグルのFacebookをのぞかせてもらったら、高3の受験期真っ最中に、「勉強やる気でねー」とか「最近、心身ともに疲れ気味」と書いてあった。本当に苦しかっただろうと思う。
     
    ただ、スグルのほかにも野球部に入った子は何人もいる。彼らは「部活に専念します」と勉強の道をリタイアした。しかし、スグルは最後まで踏み止まった。彼は自分では気づいていないかも知れないが、稀代な努力家なのだ。
    彼には小心者のところがある。しかし小心者ということは「畏れ」の感覚があることだ。危機察知能力に優れているということだ。勉強をリタイアしたら自分の人生はどうなるのか、そんな不安が彼をポジティブにしたのだろうと私は思う。
     
    そして彼を引き上げたのは、大人に対する敬意だ。彼から学校の先生など、大人に対する悪口は聞いたことがない(あの先生は変な人だと面白おかしく語るのは、さんざん聞かされたが)。彼は大人を信じている。だから大人は彼を可愛がり、いじる。大人との信頼関係がスグルの努力を引き出している。年長者と良好な関係を築く力をスグルは持っていた。
     
    さて、受験まで最終段階に差し掛かった。
    スグルは広大・岡大志望であるが、私が危惧したのは、彼がセンターの数学や国語で、問題が難しくなったら苦しむのではないか、ということである。
    彼がめざすのは教育学部の体育学科。試験は体育実技である。実技でどのレベルに達すれば合格するのか、私には情報も感覚もない。
    正直言って、体育実技など私の管轄外である。私は自転車に乗れない、跳び箱が飛べない、野球のボールをピッチャーズマウンドからキャッチャーまで投げられない、「運動神経悪い芸人」なみの運動音痴だし、体育実技を指導する資格などまるっきりない。
     
    そういうわけで、不確実的要素が強いセンターの数学・国語、それから体育実技で失敗する可能性を考え、立命館のスポーツ健康学部を絶対におさえておく必要があると感じた。
    立命館は英語・国語・日本史の3教科である。英語については高1から鍛えているので問題はない。あとは過去問を解くだけでいい。
    また立命館の古文は難しい。よほど古文に自信がある人間にしか立命館の古文は高得点を取れない。
    問題が難しいから逆に立命館の古文は捨てられる。あの古文が解けなければ立命館に合格できないのならば、立命館大生はみんな国文学者になってしまう。

    立命館を確実に押さえておくには、日本史で確実に点数を取る必要がある。彼には私立文系型の「詰め込み勉強」をとってもらうことにした。
    使用教材は山川出版社の「日本史書き込み教科書」と、iPad版「Z会の日本史」である。彼は苦痛に歪んだ悲しそうな顔をして、用語をひたすら暗記し続けた。
    しかし立命館の日本史は用語を暗記すれば得点に直ちに比例する。彼は立命館の日本史の過去問でも、得点を上げ始めた。 
    とにかく、私は彼には直接言ってなかったが、受験前の最終的メニューは、センター試験より立命館を想定したものだった。立命館を確実に取り、英語と日本史で確実に取り、不確定的要素が強い国語は勘定に入れない。

    しかし彼の第一志望は広大、第二志望は岡大である。センターの前日私は塾を休みにして、広大と岡大を訪ねた。試験前日ということで両キャンパスとも閑散としていたが、大学の敷地に向かって手を合わせた。
     
    センター試験本番、スグルは数学と国語で思うような点数が取れず、学校の先生からは第一志望の広大は難しいと判断され、岡大を受験することにした。
    岡大も体育実技がうまくいかなかったのか、不合格になってしまった。
    しかしスグルは、立命館スポーツ健康科学部に合格した。高1で学年ビリの段階から立命館に合格したのである。お父さん・お母さんには都会の私立大学という事で金銭的ご負担をおかけしてしまったが、スグルにとってはいい選択だったと思っている。

    立命館の入学試験は広島で受験したので、合格後はじめて「びわこくさつキャンパス」の近未来的な威容を見て、立命館が一発で気に入ったらしい。島のサル顔の高校生が、都会の立派なキャンパスで大学生活を送るミスマッチが、たまらなくいい。
     
    合格後、スグルと同級生のコウタロウと3人で、福山の焼肉屋でささやかな祝勝会をあげた。
    スグルとは7年、コウタロウとは6年のつき合いになるが、食事に行ったのははじめてである。私は講師と生徒の距離感にこだわるため、塾のイベントは一切しないし、おごったりしない。極めて珍しいことである。

    カラオケにも行った。あの真面目なコウタロウが「走れコータロー」をメロディラインを無視した、わが道を行く歌い方で場を盛り上げたり、歌詞の中にマンゴーとかAhAhとかいう間投詞が現れる奇妙な歌をうたったり、エンターテナーな一面を見せるのとは対照的に、スグルは桑田佳祐「明日晴れるかな」といったダンディな曲を中心に選曲していた。カラオケでは立場が逆転し、混沌のコウタロウ、整頓のスグルだった。これもまた女性にもてる「平成の火野正平」の面目躍如なのかもしれない。
     
    その後スグルに、大学生活頑張れとメールを送ったら「先生が滋賀に来てくださる時は、立命の女の子何人か用意できるくらい僕も頑張っていきます」という返事があった。
    いい体育の先生になってくれるといいのだが・・・

    (おわり)


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