猫ギターの教育論

尾道市向島の塾「US塾」塾長のブログ 早稲田大学・開成高校出身 本音が飛び交う、少し「上から目線」の教育論
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日本一素直な男・コウタロウ(5)
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    高2「ゆとり教育」

    コウタロウ君は高2になった。身体は大きくなり、顔が凛々しくなってきた。戦前の海軍兵学校の士官の卵のような、潔癖さと知性をたたえた青年に成長した。彼が「HERO」になる素質を秘めた男だということは、「やらせて下さい!」の一言でわかった。

    高2ぐらいから、私はコウタロウ君を「コウタロウ」と呼び捨てにするようになった。それまで「君」をつけていたが、大人になった彼に「君」はふさわしくないと自然に感じたのだろうか。

    しかし、家では彼は「コウちゃん」と呼ばれていた。高2のとき私がコウタロウ君に「お前、家では何と呼ばれているんだ」と聞くと、「コウちゃんです(*^.^*)」と照れながら答えていた。海軍士官の卵が家で「コウちゃん」と呼ばれているのは、ほほえましい。

    さらに、大学生になった今はどう呼ばれているのかメールでたずねると、彼はこう書いた。

    いまも基本的に"コウちゃん"です。祖父母、叔父叔母、他僕を幼少期から知っている方はほとんど、コウちゃんです。ただ、高校の後半くらいからだったか、父からは"コウタロウ"と呼ばれるようになりました。

    お父さんも私も、彼を呼び捨てにするようになった。彼に近い大人の男性はたぶん、16歳の彼を大人の一員と認めるようになったのだろう。

     

    さて、コウタロウが高2時代、私は「ゆとり教育」を意図してやろうとした。

    コウタロウが通う尾道北高は課題が多く「北高プリズン」と呼ばれるほど管理教育が厳しいところである。彼が高1のときは、塾でも北高に負けず劣らず課題を出してきた。しかも私の課題は、ただやって来ればいい類のものではない。暗記してテストに合格しなければクリアできないものだった。コウタロウは、「プリズン高校」と「スパルタ塾」で力を伸ばしていったが、サッカーも誰にも負けないくらい熱心にやっていることだし、疲労は激しかったと思う。

    だから高2時代は、コウタロウに教養を身につけさせるように心を配った。「ゆとり教育」というのは遊ばせて放任するわけではない。中高一貫校のように授業も雑談を多く取り、国語の時間を意図して多く取り、本を読ませ映画をたくさん見せて、知性の涵養を意図するものだった。脳に腐葉土を与え、高3になって大量の種を蒔き、大学受験当日に大収穫をもくろむ作戦だった。

    厳しい運動部をやっている高校生は読書が疎かになってしまう。だからコウタロウには疲れていても読めるような、ストーリーが面白い本を手当たりしだい渡した。コウタロウは弁護士が目標なのでジョン・グリシャムを中心に、ページをめくる手が止まらない本を選んだ。

    それから映画も見せた。「ショーシャンクの空に」みたいなヒューマン系、そして彼が弁護士になった時に相手にしなければならない人たちの群像劇を書いた「仁義なき戦い」などである。

    さらに、政治経済の予備校の講義ビデオも見せた。コウタロウは社会への好奇心が強い。彼は新聞やニュース番組が大好きだ。だから政治経済の基礎事項を再確認するため、また大学に入って英字新聞を手に取るクセをつけてもらいたいため、政経の教養を高めることにこだわった。

    別に模試の点数を上げようと思ってビデオを見せたわけではないが、ベネッセ・駿台高2・2月のマーク模試で、コウタロウの政経の偏差値は87.4だった。

     

    英語は、Z会の「速読英単語”修編」「速読英熟語」をメインに使った。私は英語の上達の道は、同じ文章を繰り返しやることだと信じている。福ちゃんが浪人した時に、反復が英語力をつけることを確認した。コウタロウのように語学の素質が開成高校の生徒と同レベルにある図抜けた生徒にも、反復は効果的だと感じた。

    とにかく読解は「速読英単語”修編」「速読英熟語」の2冊を、文章が丸々頭に焼き付くくらい、単語熟語を猫がエサの皿をなめつくす感じでやった。高1の時に英単語や文法は執拗にやっている。基礎学力は申し分なかった。だから応用力に特化した授業ができた。

    ときどき、センターの過去問をやって達成度を計った。コウタロウは英語で160点以上取れるようになった。ベネッセ・駿台2年2月のマーク模試では、英語の偏差値84.0を叩き出した。

    英作文や古文やリスニングも並行してやった。参考書や問題集のセレクトには気をつかった。本屋の学参売り場に行っては本を物色した。また本の評判を確かめるためにblogtwitterを積極的に利用した。リツイートやお気に入りが多いものを中心に、塾のカリキュラムに組み込んだ。私がtwitterを使っているのは、情報発信と見せかけて実は情報収集しているからだ。豊かな情報収集のためには、まずこちらから正直に情報発信するのが先決である。情報を隠していたら、情報なんて得られないというのが私の持論だ。コウタロウのお母さんが彼に食べさせる食べ物を慎重に選ばれるように、私はコウタロウに与えるべき参考書・問題集をtwitterを駆使して丁寧に選んだ。

    高2後半からは「DUO」も導入した。和訳がついていない、英文だけ並んだものをタイプして、辞書を引くことなく単語や熟語を類推して解読してもらう作業を行った。珍訳奇訳が続出したが、クイズのような楽しい授業だった。

     

    授業は笑いが多かった。私は進学校の、教師と生徒がお互い信頼しあい、笑顔で知的会話を交わす雰囲気を作りたかった。高1の時にはtraining(訓練)を意識したが、高2ではacademy(学問)にこだわった。

    たとえば、私はコウタロウの高2以外のクラスでは鬼軍曹のような授業をしているのに、コウタロウのクラスの雰囲気は明るかった。コウタロウと私は大学教授とゼミ生のように、明るく知的な会話を楽しめる関係だった。逆に、強制的に暗記で詰めなければならない場合には、突然厳しい体育会の顧問と部員の関係になった。コウタロウは頭が極めていい男で、察知力がずば抜けており、私の態度の180度大転換にも難なく適応してきた。

    コウタロウとは、彼が大学生になった今でも仲がいい。私は一部の塾OBたちとは、一生の親友になる。コウタロウももちろんその一人だ。未熟者の大学生が、成熟して私を追い越していく。その過程は実に楽しい。コウタロウは文章のキレが異常で、内面の豊かさは比類ないのだが、大人しい子なので才気が表面化しないのがもったいないので、私はあえて耳の痛いことを言ってコウタロウを挑発しているのだが、彼は言葉が少ないなりにも、真正面からぶつかってくる。彼は教師という人種が怒っている時にこそ愛情がMAXになり、期待しているからこそガンガン攻撃を受けていることを、よくわかっているのである。

     

    ところで、コウタロウの真面目さとユニークさの融合を印象付けるたのは、このノートである。


     


    高校で彼はこんな単語帳を書いていたのである。

    コウタロウは自分の辞書の〔俗〕という記号に大反応し、スラングに線を引き、端正な顔立ちをニヤニヤさせていた。まるで海軍兵学校のインテリ少年みたいだ。私はそういうコウタロウが大好きなので、単語帳を見せつけられると「お前は面白いなあ」と大声でほめてしまった。

    コウタロウは真面目な男だが、ドイツ人のように四角四面なタイプではない。イギリス人のようにユーモアとウイットを解する、柔軟な真面目さを持つ男なのである。

     

    コウタロウの高2時代は、無事に過ぎようとしていた。

    しかし年明け1月に、私が病気をしてしまったのだ。

     

    (つづく)

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