猫ギターの教育論

尾道市向島の塾「US塾」塾長のブログ 早稲田大学・開成高校出身 本音が飛び交う、少し「上から目線」の教育論
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日本一素直な男・コウタロウ(15)
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    うちの塾は小さな塾だ。だから、塾長の私と生徒の結びつきが強い。高校卒業して大学生・社会人になっても交流がある塾生は多い。コウタロウも勿論その一人だった。
    しかもコウタロウとは、時々会って「コウタロウ久しぶりだな、アメフト頑張ってるか」「おかげさまで、先生もお元気ですか」みたいな、お互いに当たり障りない会話をしている軽い関係ではない。現役バリバリの師弟関係だった。切っても切れない関係が続いたのも、大学受験の失敗という、強烈な敗北感があったからだ。
     
    私は「本命」の生徒を、いままで大学受験で第一志望に落としたことはなかった。私が思いをかけた子は第一志望に合格し、第一志望がダメでも、私にとって第一志望より納得がいく大学に合格してきた。
    冷たい言い方をすれば、高3の9月ぐらいには、私の心から離れる子がいる。いつまでたっても我流で勉強し成績が伸びない子、自習室に来ないで甘い勉強で満足している子、どれだけ思いがこもった言葉を浴びせても聞いてくれない子は、心の中でキッパリ捨てた。言葉は悪いがどうでもいい存在になった。そんな子に対して大学受験までの数ヶ月は、打って変わってやさしく接した。当然のように不合格になっても「最後までよく頑張ったね」と満面の作り笑顔でリップサービスした。
    コウタロウはそうではない。私にとって「大本命」だった。一橋不合格は悔しくて仕方なかった。睡眠が取れず、テレビやDVDを見ても上の空で、いっさい頭に入ってこなかった。心は平静を装っていても身体はウソをつかない。心臓の不整脈は激しくなり、血圧は急カーブで上昇した。
     
    私自身、現役で大学受験に失敗したとき、自殺しようと九州へ旅立った。悔しかった。敗残者のまま生きていくより、死んだ方がましだった。お年玉で貯めたお金を全部使い果たしてから死のうと、尾道から博多駅から鈍行で、それから夜行列車で鹿児島まで向かった。桜島をブラブラ徘徊し、それから肥薩線に乗って熊本に向かい、熊本駅の待合室で眠ったあと阿蘇山に行った。
    だが私には死ぬ勇気がなかった。死という最大級の勇気は生まれなかった。しかし九州の大自然に触れ、鉄道に乗ってあれこれ考えるうちに、別の勇気が生まれてきた。もう1年頑張って、大学に入ろうと決意した。現役で俺を落とした国立大学ではなく、「在野精神」あふれる私立大学をめざし、頭を刈って家に引きこもり宅浪で猛勉強した。
     
    私は負けるのが嫌いだ。コウタロウにも同じ匂いを感じた。彼は私のように感情を表に出さないが、本人も意識していない強い自制心で耐えているのがわかった。
    コウタロウは小さい頃からアトピー・アレルギーで苦労している子だ。かゆさや痛みがおさまることがコウタロウにとっての幸せだった。マイナスからゼロに戻すことに喜びを感じてしまう。それは身体の老化であちこちが悪くなり、小康状態がくれば幸せを感じる老人の喜びと同じだった。
    私はコウタロウに、もはやマイナスを埋め合わせるだけの苦労だけでなく、若者らしくゼロからプラスに這い上がる喜びを感じて欲しかった。コウタロウの鋼鉄の自制心を、「知る人ぞ知る」存在ではなく「誰もが知っている」存在へ成長する武器にしてほしかった。
    コウタロウは小さいときから、大げさに言えば「死」と戦ってきた。死に物狂いで鋼鉄の自制心を作り上げてきた。だからコウタロウは死ぬほど勉強した。彼にとって努力とは、死から逃れることだった。そんな健気な姿が心を打たないわけがなかった。
     
    コウタロウは、NFLのニューオーリンズにあるセインツのQB、ドリュー・ブリーズに憧れているようだった。ブリーズはコウタロウと同じ食物アレルギーである。おそらくアレルギーのため、身長が低く肩も弱い。ドラフトでは背が低いからと言って高評価はもらえなかった。でも今やNFLを代表する頭脳にまで駆け上がった。
     
    自分と誕生日が同じで、卵・ナッツ・グルテン・乳製品にアレルギーがあるブリーズ。アレルギーがあるからかは分からんけど身長が183cmとNFLのQBにしては小柄。見とって勇気もらえる。何としても頑張って欲しい。
     
    コウタロウにもブリーズのように、受験の屈辱をバネにして、誰も太刀打ちできない、類型がいない人間に育って欲しかった。
    私は大学生のコウタロウに対して、高校生の時以上に強く関わるようになっていた。それが自然な流れだった。私はコウタロウの人格力を高めようと腐心した。知的なinputとoutputを活発に繰り返し、アメフトの筋トレで逞しくなっていく肉体と比例して、知性の面でも成長してほしいと願った。肉体と知性がパワーアップすれば、人格的迫力も付随してくるはずだった。

    inputのため、コウタロウに50冊ほど本を送った。私が読んで感銘を受け、いつか再読したいと思い、塾の本棚にしまっておいた本ばかりだ。大学生のコウタロウにも読みやすい、アメフトで疲れた身体でもページをめくる手が止まらないような、往復3時間の電車の中で読むのに最適な本を選りすぐった。もちろん全部読めと言っているわけではない。コウタロウの勉強部屋の本棚の肥やしになっていいから、数年後にでもパッと手を取ったら面白かったと感じてもらえればいいなと思った。

    outputにも力を注いだ。
    コウタロウが年長者から今よりずっと可愛がられるように、メールの返信の速さと内容に関して異常なくらいうるさく注意した。ある時は私へのメールの返信で、面白みがない無味乾燥なことを書いていたので、メールで叱り飛ばしてしまった。
    「お前は世界を動かしたいんだろうが。このメールは俺一人の心すら動かせない。文章が硬い。硬いと言うのは、自分をもっと他人に知ってもらいたいという欲望の欠如だ。人に自分をアピールしようと思ったら、自然に文章は柔らかくなるはずだ。自分のことを他人がアッサリ理解してくれると思うな。硬い文章はサービス精神の欠如と潜在的な傲慢さの表れ。あとストックフレーズが多い。手抜きだダメだ。誰にでも書けるような文章は書くな。天才の手抜きは一発で見抜ける」とキレてしまった。
    他の大学生だったら叱るレベルのメールではない。だが、私は45歳の私と同じレベルの文章をコウタロウに求めていた。

    メールで叱った後、コウタロウからは反応がなかった。さすがに口うるさい私に愛想をつかしたのかと思ったら、夜、アメフトの部活の帰りに直接あやまりに来た。「メールのこと、申し訳ありませんでした」と、アメフトで真っ黒になり、紅く硬直した顔つきで頭を下げた。こういうところがコウタロウが誠実な人たらしである所以である。
    そのあと私は30分間、メールの文章の書き方と、迅速に返信することがどれだけ大事なのかについて執拗に説教した。説教が終わったあとコウタロウに「よく、こんなに怒っているオレのもとに直接来る勇気があったな。炎の中に飛び込むようなものだ」と尋ねたら、「先生は直接会っている時がいちばんやさしいんです。メールや電話では、いまの僕の力では何も言い返せません」と答えた。
     
    あと、コウタロウ @han2_kには積極的にTwitterを利用することを薦めた。私は塾生OBにTwitterで意見を堂々と書くか、あるいは私の意見に反論を仕掛けて来いと言ってある。でも、どういうわけか誰も書かないし真正面からぶつかってこない。
    「俺はたかだか田舎の塾講師だろ? そんな男の偏りある意見くらい、真正面から論破するくせをつけておかないとダメ」と言ってあるのだが、誰も相手にしてくれない。コウタロウも恥ずかしがり屋で理想が高い性格が災いしてか、なかなか自分の意見を出さない。私に反論を仕掛けてこなかった。
    私はコウタロウをTwitter上で売り出したかった。普通の大学生はLINEやfacebookやTwitterで、同年代の友人と他愛もない会話をしている。でもコウタロウは司法試験をめざすのだから、文章力を生かし、私だけでなく弁護士の方、社会人の方とも堂々と渡り合ってほしかった。いろんな大人に可愛がってもらい、社会人のエキスを吸い取ってもらいたかった。Twitterはタテの人間関係を作る絶好のツールではないか。でもコウタロウはなかなか思い切って年長者には絡めなかった。
     
    あるとき、私は無謀な策を立てた。
    東京の個人塾の塾長、赤虎先生 @akatorajukuchou に議論を仕掛けてみろとコウタロウに迫ったのだ。赤虎先生は中学生の成績の伸ばし方にかけて、比類のない力を持っていらっしゃり、鋭利な頭脳で心を突き刺すtweetをされる方だ。赤虎先生はその時、たまたま部活反対の一連のtweetをされていた。部活がどれだけ学力を蝕んでいるか、隙のない論理と、強い説得力で読者を圧倒していた。
    これを読んだ私はコウタロウに「アメフト頑張って、部活で成長してるじゃないか。部活の良さを赤虎先生の前でアピールしてみろ。ディベート感覚で反対意見をかましてみろ。でも絶対に嫌われてはいけない。お前らしい人の良さ頭の良さがあふれる文章で、若武者らしくディベートしてみろ。横綱・赤虎先生と正面からぶつかったら、度胸と論争能力は一気に上がるぞ。読む人に論の鋭さと人格の気高さの両方をアピールしてみろ」
    でも、コウタロウは赤虎先生にかかっていかなかった。(赤虎先生とコウタロウが部活をめぐって論戦をはじめたら、もちろん私は知らぬ振りして高みの見物を決め込むつもりだった)友人の塾の先生方からは「まだコウタロウ君は大学生なのに、猫ギター先生は要求が厳しすぎる」とたしなめられた。私の奇想天外かつ無謀な作戦は失敗に終わった。
     
    そんなことがあって、コウタロウはますますtweetをしなくなった。私がTwitterで話を振っても無視した。書かないのは当然だった。何かを書けば私からダメ出しがでるのだ。私がコウタロウに課したハードルは高すぎた。でも、私には挑戦しないコウタロウが歯がゆかった。とうとう、私はコウタロウの消極性に痺れを切らして、コウタロウのTwitterのアカウントをブロックした。コウタロウからメールがあった。
     
    先生のtweetに積極的に絡まなかったのは今回が初めてではないと言われればそれまでですが、自分を世に出させようとする先生の愛情は理解していたつもりでした。
    Twitterは匿名性が保たれ、自分のオピニオンを発表出来る場です。さらに普通に生活していては出会えないであろう方、弁護士や記者、大学教授etc、と出会い意見を言い合うことが可能です。こんな便利な機会を利用しようとしないのは宝の持ち腐れでしかありません。ヨコの繋がりはLINEやfacebookで築くことも可能ですが、タテの繋がりを作るためのTwitterの機能は替えがききません。とはいうものの、一大学生が社会人とタテの関係を築くためには、相当な信頼を得ることが必要です。不幸にも、僕はまだTwitterで信頼を得るプロセスを理解していません。
    フォロワーが数多くいらっしゃる先生、六年間通っていた塾の先生ではなく人生の師としての笠見先生に再びフォローしていただけるなら幸いです。言うまでもなく自らも努力します。自分にとって先生の支えほど心強いものはありません。


    こんなに理路整然とした、情のこもったメールが書けるのに、どうしてアピールしないのか。コウタロウは歴代首相で言えば、田中角栄や中曽根康弘や小泉純一郎のように派手なタイプではない。佐藤栄作や大平正芳や竹下登のような地味なタイプだ。コウタロウは言葉は少ないが「濃い」男だ。でもその濃さを理解してもらえるか不安だった。
     
    コウタロウが変貌を遂げるのは、大きな自信をつける瞬間を味わうことだと考えた。コウタロウが自己アピールにイマイチ弱気なのは、圧倒的な成功体験がないからではないかと解釈した。努力して苦労して涙を流して、やっと勝ち取った成功で爆発的な体験をさせたい。そうすればコウタロウは潜在能力を表に出せる。コウタロウが自己主張を始めたら、ダムの決壊のように水が溢れ出すのは明白だった。自信がついたコウタロウには誰もかなわない。
    しかし、これと言った決定策が見つからなかった。
     
    6月初旬、都会の華やかさと妖しさを体験させるため、私はコウタロウを大阪に連れて行った。私は塾生と旅行に行くのが好きだ。国内はもちろん海外にも行く。アンパンマンK君たちとは香港へ、福ちゃんとは韓国へ行った。コウタロウとも海外へ行きたかったが、お互いに時間が取れないため大阪で都会の刺激を受けて欲しいと考えた。
     
    今考えるとこの大阪行きが、コウタロウの人生の転機だった。
     
    (つづく)



    New Orleans Saints;
    Drew Brees


    Okayama Univ. Badgers;
    Kotaro Yano


     
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