猫ギターの教育論

尾道市向島の塾「US塾」塾長のブログ 早稲田大学・開成高校出身 本音が飛び交う、少し「上から目線」の教育論
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日本一素直な男・コウタロウ(18)
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    コウタロウは単語を暗記し続けた。2000語を2週間で暗記しなければ、大学生なのに髪をバッサリ刈られる。こんな恐ろしい塾から普通の若者は逃げるが、コウタロウは逃げるどころかガッツリ食らいついてきた。
    アメフトに負けてはいられなかった。コウタロウはアメフトをやっている。私が「疲れただろう」と気をつかって甘く接すれば、精神力が強いコウタロウといえども心に隙ができる。アメフトの激しさ以上の迫力で向き合い、身体的な疲労を緊張感で打ち消すのが、高みを目指すコウタロウへの礼儀だった。
    コウタロウが大学生になっても、鬼のような強制力を行使する私から離れないのは、潜在的に厳しいものをコウタロウが求めているからだ。私がコウタロウに慈父の顔を見せてしまえば、コウタロウの要求に反してしまう。だから私は容赦しなかった。
    私には「巨人の星」の星一徹や、「あしたのジョー」の丹下段平が乗り移っていた。コウタロウは現代っ子で、素晴らしいお父さんお母さんに深い愛情で育てられ、何不自由ない生活をしているのに、昭和40年代のスポ根の主人公みたいなハングリー精神を持っていた。
    私は世間からスパルタ塾とかブラック塾とかパワハラ塾長と呼ばれようと一向に構わなかった。コウタロウには明るい将来があるのだ。遠慮したらコウタロウの才能が死ぬ。才能がある子は若い時代にビシバシ鍛えて「暗黒時代」を送らせるべきだ。暗黒時代に耐えに耐えて耐えまくれば、誰にも負けない力がつく。私もコウタロウも未来を完全に信じていた。
     
    テスト1週間前、コウタロウからメールが来た。
     
    最後までたどり着きました。運命の分かれ道はRANK3です。最後の辺りは、しっくりこない単語ばかりでした。後はどれだけ反復出来るかが勝負です。
    テスト、ありがとうございます。緊張感があって気持ち良いです。
    勝負はガチンコでやらないと快感が半減します。頑張ります。
     
    6月23日18時、ガチンコ勝負の時がやって来た。
    20問中18問が合格。テストは何回繰り返してもいいシステム。タイムリミットは21時。ダメだったら即散髪。バリカンは充電しておいた。
    コウタロウは緊張した面持ちで塾に来た。私は軽く「どうして俺ら、こんなに緊張してるんだろうな」と言ったら、コウタロウは笑った。
    コウタロウはアメフトの部活帰りに塾に寄った。アメフト部に入って2ヶ月、顔は日焼けして真っ黒で、筋トレを継続し上半身に筋肉が見る見るうちについているのが誰の目にもわかった。体育会系丸出して、どう考えても裏で英語の猛勉強をしている姿には見えなかった。そんな二重性がコウタロウの真骨頂だ。
     
    テストがダメだったらどうしよう。不安なのは私も同じだった。もし低いスコアでコウタロウがなかなか合格できなかったら、私はどう振る舞うべきなのかわからなかった。強い口調で叱り飛ばせばいいのか、やさしく説諭すればいいのか、無視して冷たさを強調するのか、「お前は見損なった。二度と来るな」と突き放すべきなのか、コウタロウを信じていないわけではないが、態度を決めかねたままテストを迎えた。大事なテストで緊張するのは生徒だけではない。先生の方も気が重いのだ。とにかく、一緒に泣きながら頭を刈るのは嫌だった。

    だが、私の気づかいは杞憂に終わった。単語のテストは3回目で合格した。




    20問で18点。合格した瞬間笑顔で手を握り合った。「おめでとう」「ありがとうございます」
    私は泣きそうになったが、この緊張感を9月まで3ヵ月維持するにはどうすればいいかで頭がいっぱいだった。次はどんな手段でコウタロウを引っ張ろうか。
     
    でも単語が一段落したことに、ひとまず安堵した。あとはせっかく暗記した単語を忘れさせないようにしなければならない。語呂をtwitterで流す作業はしつこく継続した。単語力があれば読解力は飛躍的に伸びる。種は蒔いた。苗が出たら成長させる作業が待っていた。難しい文章をどんどん読ませよう。2週間で英単語2000個暗記というコウタロウの超人的な快挙で、イギリスへの道は近づいた。
     
    次の日の夜、スパルタ塾の暖簾は1日だけおろして、コウタロウとお祝いに食事に出かけた。律儀にお礼のメールがあった。
     
    昨日は食事に連れて行っていただき、ありがとうございました。単語テストに合格した後のご飯は、料理の素材そのものが持つ味よりも、美味しく感じました。
    留学を決めて、もっと美味しいご飯が食べられるように、これからも頑張ります。
     
    (つづく)
     

     
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