猫ギターの教育論

尾道市向島の塾「US塾」塾長のブログ 早稲田大学・開成高校出身 本音が飛び交う、少し「上から目線」の教育論
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日本一素直な男・コウタロウ(21)
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    コウタロウの坊主頭は衝撃的だった。
    塾の後輩たちは驚きの目でコウタロウを見ていた。コウタロウは岡山大学に進学したはずだ。でもなぜか塾に残り高校生時代と同じように勉強している。しかも丸坊主で。コウタロウは英語を音読する習慣が身についていて、坊主頭でボソボソ音読するコウタロウは、経典を唱える若い僧侶にしか見えなかった。
    コウタロウは大学一回生で一番遊びたい時期なのに、アメフトで厳しく自らを鍛え、留学のため英語の猛勉強に励んでいる。カッコいい生き方をしている男が、あえてカッコ悪い坊主にして、自分は未熟だ、まだ俺はこんなもんじゃないんだと頑張っていた。後輩たちは「大学生」の世間一般のイメージとは正反対のコウタロウを驚きの目で見つめ、尊敬した。
     
    だが、七月から八月にかけ、私はますますコウタロウに厳しく当たるようになった。
    コウタロウが中学生の時、叱ったことは一度もなかった。「お前は真面目な子だ」といつもほめていた。コウタロウは塾ではいつもニコニコしていた。でも高校生になってから私はコウタロウを叱り始め、大学生になってからは毎日のように叱っていた。
    コウタロウは大人や先輩から叱られる子ではない。たぶんコウタロウを叱る大人は私だけだと思う。コウタロウが叱られた経験の9割は私からではないだろうか。
     
    私は、誰も叱らないような「いい子」を叱る。99%満足していても、残りの1%を直したくなる。真っ白なテーブルクロスに付着した、小さな墨汁のシミが気になる。シミを取るために強い行動に出る。
    強く期待している、目の中に100人入れても痛くない子を叱れば胸が痛む。私が叱ったことで、子供が心を痛めていると思うと、「オレは何様なんだ。あんないい奴を叱る権利があるのか?」と胸が痛くなる。
    そんなつらい思いをするのだったら、叱らなければいいじゃないかと思うのだが、10年経ってコウタロウが大人になった時、「あの人は自分を叱らなかった。僕に遠慮した。弱い人間だ」と軽侮される。逆にいま思い切って叱ったら「あの時先生が叱ったことが、自分にプラスになった」と感謝される100%の確信がある。たとえ感謝なんかされなくても、彼の価値は高まる。そんな未来が予知できるからこそ厳しく叱った。
     
    ヤクルト時代の野村克也監督も、古田をよく叱ったそうだ。古田は野村監督のことを「怒られることはようありましたよ。なんていうのかな、人格すべてを否定するぐらいまで。お前のあれがどうのこうのって言いだして、言いだしたらもう止まらないって監督だったから(笑)」とインタビューで語っていた。
    私は野村監督の気持ちがよくわかる。コウタロウの顔を見るとアドレナリンが抽出され、言葉がほとばしった。コウタロウに人格否定スレスレの言葉をかけるのは、彼の精神の中に食い込み、さらに人格力を上げたいと切実に思ったからだった。現在のコウタロウを否定すれば、土壌を根こそぎ耕せば、未来へと脱皮し大きくなっていく。だから真正面からコウタロウの心に猛タックルし続けた。
     
    私がコウタロウにかける言葉は、いつも矛盾していた。朝令暮改で言うことがコロコロ変わった。なぜなら私の魂はコウタロウと一心同体だったからだ。生徒を自分のことのように心配し始めると、他者としては扱えなくなる。他人事ではないと、心配事が頭の中に渦巻き葛藤を始める。私の心の葛藤を現在進行形で口に出しているから、一時間前の発言と現在の発言に矛盾が生じる。自問自答が私の中で完結するのではなく、私とコウタロウという他者の間で行われる状態だった。遠くからどっしり構えて矛盾のないアドバイスなんて、他人事のような行為はできなかった。私の言葉は常に液体で、固体にはならなかった。
     
    ある時、コウタロウが塾にテキストを忘れた。私は遠慮し叱らなかった。じゃあ他のテキストを出してくれと言ったら、それも忘れたと言う。私は激怒して「何しに来た、帰れ」と言った。しばらく叱った後、コウタロウは本当に帰り始めようとした。私は近くにあった扇風機を蹴飛ばした。音に驚いてコウタロウが戻ってきた。私はそれからコウタロウに4時間半説教を続けた。
     
    私の頭には、コウタロウを伸ばすための精緻な計画があった。今日はこのテキストのあの部分をやろう。テキストのこの箇所は1ヶ月前にやったきりで消化できてないから反復しよう、このテキストはマンネリになってきたから新しいテキストで気分転換しよう。限られた時間で密度の濃い勉強をしなければ9月に間に合わない。だからテキストを忘れるなんて致命的なミスだった。計画が根底から覆る。私とコウタロウが漫才コンビだとすると、ネタを書くのは私、演じるのはコウタロウ。ネタ合わせをして本番に備えたいのに、演者が遅れるとは何事かと思った。気の緩みを鋭く突いた。
     
    私に叱られコウタロウは泣いた。コウタロウは涙があふれると、涙が落ちないように天を仰ぐ癖がある。この時も意地でも涙を流さないよう天井を仰いだ。だが、大量にあふれる涙の量には勝てなかった。コウタロウはアメフトで大きくなった身体に、日焼けした真っ黒な童顔で泣いていた。もちろん私も泣きながら説教した。
    コウタロウはアメフトをやりながら交換留学をめざすという、普通の大学生なら絶対にできないことをやろうとしている。7月には学校の試験、8月には自動車教習所にも通い多忙の身だった。芸能人並みのスケジュールだ。だから私は気を抜けなかった。私が甘くすればコウタロウをスポイルする。現役時代みたいな後悔は二度としたくなかった。2ヶ月猛稽古に耐えれば、コウタロウには誰にも負けない未来が待っていると、私は確信していた。
     
    後輩たちは、コウタロウが激しく叱られ、泣いている姿を見ていた。コウタロウは高校生時代から塾生の生きた見本だった。コウタロウがいるからこそ塾は締まった。習字の先生が書いた楷書体のお手本を弟子が真似るように、コウタロウの意識や姿勢が塾生たちに刺激を与えた。そんな尊敬するコウタロウ先輩が激しく叱られている。塾は凍りついた。
     
    だがコウタロウが叱られる姿を見るたび、後輩たちはますますコウタロウを尊敬した。
    高3にワタルという男がいる。コウタロウと同じ進学校に通う、コウタロウの一年後輩である。
    ワタルは高1から塾に来た。史上最悪の生徒の一人だった。これほどいい加減な高校生を私は見たことがなかった。勉強時間が1時間続かない。叱ると5分間は立ち直るが、また姿勢が乱れる。面談の時も「僕は勉強嫌いですから」とハッキリ言っていた。サッカー部がきついから週2回の通塾を1回に減らしてくれと頼みにきたこともある。そのサッカー部も1年途中で辞めた。塾をしんどいからと言ってよく休んだ。忘れ物を3回続けて私に胸倉をつかまれた事もある。バンドにも熱中していた。応援団に入っていたが、容赦なく友人を責めるので煙たがられていた。模試の成績は200人中180番と最悪だった。いったい塾をいつやめるんだろうと思っていた。
     
    高3・2学期のワタルは大変身を遂げていた。
    高1のときは1時間しか継続できなかった勉強時間も、休日は平気で13時間ぶっ通しで勉強できるようになった。高校では応援団の副団長になっていた。意識の低い友人や後輩にズケズケものを言うので相変わらず煙たがられてはいたが、ヤクルトの引退した宮本みたいに、意識の高さで統率できるリーダーになっていた。
    11月、ワタルはセンターの日本史・倫理政経・生物が伸びていない時期があった。ワタルは深刻に悩んでいた。帰り際、突然ワタルから話があって、「センターの実戦問題集で、2週間以内に80点以上取れなかったら、コウタロウ君みたいに坊主にして下さい」と言ってきた。猛勉強をしてノルマをクリアし坊主は免れたが、コウタロウの修行僧姿をカッコいいと思う感性が、ワタルには身についていた。
    また、先日数学僑造亮太鑢簑蟒犬鬚笋蝓∋廚辰燭箸りの点数が取れなくて、ワタルは見直しの時、屈辱で突然泣き出した。「遊んでいるヤツに負けて悔しい」と慟哭していた。私はワタルに30分話した。「お前が泣くということは成長した証拠だ。高1の時のお前から、いまの姿なんか想像しなかった。正直言って高1の時お前を見捨てていた。ここまで人間力が高まるとは思わなかった。もうセンターなんかどうでもいい。いまの意識の高さを忘れるな。いまの涙でお前が将来凄いヤツになることがわかった」と言った。
     
    夏から秋にかけて、コウタロウとワタルに1対2で英語を教えた。ワタルはコウタロウを慕っており、コウタロウもワタルを「あいつは尖っているように見えるけど、繊細な男です」と目にかけていた。
    コウタロウとワタルで、DUOのディクテーションをしたり、速読英単語・上級編を訳したりしたが、ワタルはコウタロウにまったく歯が立たなかった。横綱コウタロウの胸板に跳ね返されていた。しかしワタルは、ニコニコしながら流麗に訳すコウタロウに鍛えられ、英語は模試で5位を取った。現在は神戸大学経済学部を第一志望に頑張っている。
     
    ワタルを跳ねつけたコウタロウの英語力は、鍛えれば鍛えるほど上がっていった。8月下旬には、コウタロウは英字新聞や雑誌の、日本人向けに単語を改変していない「ナマ」の文章をスラスラ読めるようになっていた。6月初旬に「速読英単語・上級編」で詰まった姿はもはやなかった。単語を2000個暗記した成果で、英文中の知らない単語が圧倒的に減り、数少ない未知の単語も類推力でカバーした。コウタロウの英文読解力は、一橋大学を受験した時を凌駕していた。
     
    コウタロウがやった英語の一例がこれである。
     
    Usually identified in childhood, autism is one of a host of so-called spectrum disorders. They are designated as such because of the wide range of symptoms and impairment that individuals with the disorders may exhibit. Autism Spectrum Disorder (ASD) can refer to Autism Disorder (classic autism), Asperger Syndrome, or other similar child development disorders. Symptoms of ASD may differ greatly between children in type or degree, but they usually share certain commonalities. For example, children with ASD do not develop typical social or communication skills. They often avoid eye contact and are unable to make sense of ordinary social and communication cues. They may also engage to repetitive speech or movement patterns meanings. As a consequence, their behavior is frequently perceived as inappropriate and incomprehensible. Children with ASD are also likely to simultaneously suffer from other learning disabilities or mental health conditions, including attention deficiency, depression, anxiety, and hyperaggression.
    In spite of extensive investigation, the search for ASD causes has seemingly reached an impasse. Many researchers believe ASD is inherited; that it is due to genetic predisposition. However, cases seem to be arbitrary, since there is no prior family history for most children afflicted with the disorder. Other researchers are looking into environmental factors, such as family medical conditions, parents’ ages, exposure to toxins, and pregnancy and birth complications. Still others hold that it is interactions between environmental factors and mutated genes that cause some children to develop ASD. One controversial theory has arisen among a number of parents with affected children. It is that the onset of ASD is somehow linked to children vaccines. Children have had numerous injections by the age of two, which is about the time that symptoms of ASD are likely to be noticed.
     
    コウタロウがスラスラこの英文を訳す姿にワタルは憧れ、コウタロウも現役高校生ワタルの激しい追い上げに刺激を受けていた。
    ワタルのTwitterをそっとのぞいたが「俺は第二のコウタロウになる」と書いてあった。
     
    (つづく)


     
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