猫ギターの教育論

尾道市向島の塾「US塾」塾長のブログ 早稲田大学・開成高校出身 本音が飛び交う、少し「上から目線」の教育論
kasami88★gmail.com
CALENDAR
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
<< September 2017 >>
RECOMMEND
SELECTED ENTRIES
CATEGORIES
ARCHIVES
twitter
猫ギター
MOBILE
qrcode
LINKS
PROFILE
OTHERS
無料ブログ作成サービス JUGEM
<< 日本一素直な男・コウタロウ(21) | main | 日本一素直な男・コウタロウ(23) >>
日本一素直な男・コウタロウ(22)
0
    私は大学生の留学の指導なんてやったことがなかった。まったくの未経験者だ。高校生の英語とは難しさが違うし、その前に方向性がわからない。IELTSの存在も知らなかった。アイエルツとアンメルツの違いもわからなかった。教える先生が素人なのだから、留学は無謀な挑戦かもしれなかった。

    だが、私は新しい挑戦が好きだった。私は7年前高校部を始めたとき、高1クラスと並行して、いきなり高3クラスを作った。高校部開設1年目から大学受験の渦中に飛び込んだ。無謀な体験で神経をすり減らしたが、将来ある若者の人生を賭けた大学受験を共に戦うことは、塾講師人生で最高に楽しかった。人生を預かるヒリヒリ感に、苦難より高揚感の方が大きかった。激しい試行錯誤の連続だったが、初体験の原初的パワーが良い結果をもたらした。ノウハウは少なかったが、勢いがあった。勢いがノウハウを生み出した。新しいことを始める時、私は一番燃えるのだ。コウタロウと留学を目指す戦いも、高3クラスを始めた時と同じパワーがみなぎっていた。
     
    ただ、どんな教材を、どんなやり方で、どの順序でやるかに関しては悩んだ。英語に関する本は多い。どの出版社もTOEIC,TOEFL,英検など、英語検定試験の出版物には力を入れている。玉石混交ではなく、とても良い本が揃っていて、あれもこれもやっていたらコウタロウが迷惑する。教材選びは難航し、まるで限られた日程でパリや香港のような美食の町を訪れた時のレストラン選びに似ていた。行きたいレストランを全部訪れるわけにはいかない。絞り込め。私は大書店の英語本コーナーに頻繁に足を運び、ネットで書評を調べ、詳しい人に話を聞いて、コウタロウに与える本を厳選した。教え子に与えるテキスト選びは、膨大な候補の中から数冊に絞る作業が一番大事なのだ。テキストこそ結果を左右することは、ベテラン塾講師なら熟知している。
     
    Readingの柱にしたのはZ会の「Advanced1100」だった。




    TOEIC800〜900、英検一級対象で、Z会の英語教材では最高に難しい本である。コウタロウが高校時代から使っていた「速読英単語」シリーズと同じ、左に英語、右に日本語というレイアウトが同じで、使い勝手がよく気に入った。
    「Advanced1100」の英文は歯ごたえがあった。英字新聞や雑誌の文章が「ナマ」で出てくる。日本人が読みやすいように単語や表現が改変されていない。「Advanced1100」は英語が得意なコウタロウでも少し難しいという気持ちはあったが、コウタロウは飲み込みがはやく、また難しい問題に果敢にチャレンジする性格なので、ハードルは高い方がいいと考えた。才能がある子には背伸びが必要なのだ。私の予想以上にコウタロウは英文読解力を高めていった。
    また難しい英文だけでは消化不良になるので、少し英文のレベルが簡単な「Core1900」を家庭学習課題にした。難しい「Advanced1100」を少量でじっくり、簡単な「Core1900」を大量にがっつり読んでもらった。ウイスキーのストレートを少量、ビールを大量に同時に飲ませるダブル方式で、コウタロウの英語の酔いが回るのを速くする、基礎と応用の両方から攻める戦法だった。
     
    単語は「TOEFLテスト英単語3800」に加えて、「オックスフォード ピクチャーディクショナリー」を使った。この本はオックスフォード大学が出版している英単語の絵本で、食べ物や日用品を絵で暗記でき、思わず長時間眺めてしまう魅力的な「英単語図鑑」だった。全ページカラー。英和版と英英版があるが初心者には英和版の方がいいと思った。絵が外国風でグロいが異国な感じも魅力だ。






    「オックスフォード ピクチャーディクショナリー」には、単語の他にも高校までの学習では学べない、日常会話のフレーズがふんだんに掲載されていた。たとえば「絵に名前をつける」をLabel the picture.とか、「タマネギを刻む」をChop the onions.とか、慣れていないと出てこない日常会話が盛り込まれている。IELTSには最適だと思って、コウタロウには興味があるページをランダムに読み込むよう指示した。
     
    日常会話と言えばもう一冊、「日常英会話5000」を使用した。この本は日常会話で頻繁に登場する英語表現、言えそうで言えない表現、知っておくと便利な英語らしい言い回し、円滑に会話を進めるために必要な機能表現が、データベースのように5000以上掲載されている。




    例文を挙げると「大往生ですね」「過労死は判定基準があいまいだ」「運も実力のうちかな」「洋服は組み合わせ一つで印象が違う」「現行犯で逮捕された」「あの本は絶版だから、図書館で借りるしかない」「事故のため新宿駅で折り返し運転をしています」「サイコロの目の数だけコマを進めます」「接待されて当然だと思っているのかな」などといった、英語にするのが難しくも面白い表現が詰め込んである。傍に置いておくと飽きない本だ。コウタロウには専用のノートを作り、面白い表現をピックアップして書き込むよう指示した。
     
    Writing対策としては、IELTS用のサイトを使った。このサイトはIELTSのWritingで出題されそうな質問と模範解答が大量に掲載されている便利なサイトで、コウタロウには例文を頭に1つでも多くinputするように言った。書いて添削することも大事だが、まず大量にessayのパターンを詰め込むことが大事だ。コウタロウは文章がうまいので、inputさえすればoutputはお手の物だった。定型をいかに頭にストックするかが鍵だった。
     
    以下は、コウタロウがTwitterに書いた、教材の感想である。
     
    1番歯ごたえがあるのはadvanced1100(Z会)。
    NYタイムズなどが素材で内容が難しい上に引っかかる単語が幾つかあるため、読んでいる最中に俺の呟きのペースが乱れる。だが、難しいからこそ考え抜いた末に障害をクリアした時の快感は大きい。難単語の意味を類推できた時は、隕石が大気圏に突入した時のような眩い閃光が頭に走った感覚になる。
     
    日常英会話5000は僕の中ではリラックスタイム。普段の会話で出てきそうではあるが、いざ英語にしようとすると難しいセンテンスを易単語で表現してある。俺の好奇心アンテナがビンビン反応する。
    Rainy season is here.(梅雨に入った)とかThis guy is always mouthing off.(こいつはいつもよく発言する)など。自分のアンテナがなるほど!と察知したものをノートに写す。スピーキングでも使えると思ったものもノートにストックしておく。
     
    テキストで地力を付けながら、コウタロウはIELTSの過去問にもチャレンジしていった。コウタロウはスコアを順調に伸ばしていった。
     
    (コウタロウ)
    最高にテンションが高まるのがIELTSの問題をやる時。一回ごとに点数が出るからスリルがあって楽しい。さらに最近覚えた単語が出てくると、ざまぁ見ろ!と顔に自然と笑みがこぼれる。

    採点された答案が返ってきて見直しをすると、何でこんな問題間違えたん!というしょうもないミスが割とある。高校受験、大学受験の時も感じていたが、本番形式の問題をするとこは、相手の強さを知り自分の成長具合を確かめると同時に、学習意欲を何よりも強く引き立ててくれる最強兵器だ。
     
    コウタロウは8月のお盆にも英語を続けた。大学受験生と同じように、1日12時間勉強した日もあった。コウタロウに休息はなかった。マグロやカツオみたいな回遊魚のように、コウタロウは一生懸命生きていた。
     
    (コウタロウ)
    昨日は塾で9時から21時まで英語を勉強。高3の2月以来約5ヶ月ぶりに12時間の学習。他の大学生が遊んでいる間に僕は英語と戯れた。笠見先生が、集中→リラックスのサイクルで時程を組んでくださったので、最後まで効率良く勉強できた。普段アメフトで体を鍛えていることも効いているだろう。

     
    コウタロウは夏休み、大学1年生とは思えないハードな生活をしていた。
    IELTSの試験は9月、目前に迫っていた。
    だが9月1日、私とコウタロウはとうとう大喧嘩した。
     
    (つづく)
    | uniqueな塾生の話 | 19:02 | - | - | ↑PAGE TOP