猫ギターの教育論

尾道市向島の塾「US塾」塾長のブログ 早稲田大学・開成高校出身 本音が飛び交う、少し「上から目線」の教育論
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日本一素直な男・コウタロウ(23)
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    9月1日、私とコウタロウは大喧嘩した。
    原因は遅刻だった。
     
    コウタロウは9月1日、塾に17時に来る予定だった。早朝からのアメフト練習終了後、岡山駅から新幹線で来ることになっていた。
    アメフト部でコウタロウは、1年生ながら司令塔クォーターバックに指名され、記憶しなければならないフォーメーションも多い。アメフトは湿度の高い日本の夏に合うスポーツではない。乾燥したアメリカの気候だからこそできるスポーツである。蝉時雨が鳴り響く日本の8月の灼熱地獄で、重いヘルメットと厚い防具を装着して練習するなんて、想像を絶した。
     
    8月下旬にはアメフト部の合宿もあった。アメフトは身体の大きさが命だ。炭水化物を大量頻繁に摂取しなければならない。コウタロウたちアメフト部員は合宿初日から大量の丼飯を食べ、翌日のハードな練習でみんな吐いたそうだ。「同じ釜の飯を食う」どころか「同じ釜の飯を吐く」仲になっていった。厳しい練習でチームの団結力は高まった。
     
    夏の疲労がピークに達した9月1日、コウタロウは岡山駅で、尾道駅への乗換駅である福山駅に停車しない新幹線に乗ってしまったという連絡があった。岡山のあとは広島まで停まらない。新幹線は無情にも福山駅を通過していく。広島駅まで乗り過ごしてしまったコウタロウは折り返しの新幹線に乗り、50分遅れの17時50分にやって来た。私の頭に描かれていた計画は大幅に乱れた。

    遅刻したコウタロウは、私が怖いからか青紫色の顔をしていた。
    私はコウタロウに言った。「俺の怒りのレベルは1から10のうち、どれくらいだと思う?」
    コウタロウは、少しどもって言った「10です」
    私は答えた「100だ」

    そのあと私が吐いた台詞が、ロカビリー先生がある時ネットに書かれた、大学受験をめざす高3の女の子を叱った言葉とほぼ同じものだった。
    「君は高校受験の悔しさを忘れた。俺は覚えてる。いや俺は君を落としたことを一生忘れない!それに今回も何だ!何で君より俺の方が本気なんだ!何で君より俺が悔しがらなきゃいけないんだ!お前の人生だろうが!」
    高校受験を大学受験に変えたら、私がコウタロウに投げかけた言葉は、ロカビリー先生とほぼ同じものだ。私は心底驚いた。
     
    もちろん、コウタロウは気が抜けているわけではない。逆だ。2日に1回は塾に来て、平均4時間勉強している。塾の時間設定はコウタロウに任せてあった。この日も長い練習のあとに、塾の時間を入れたのはコウタロウだ。朝と昼はアメフトの練習、夕方からは塾で英語。岡山から尾道までは普通列車で1時間30分。普通列車に乗ってのんびり来ればいいのに、コウタロウは英語の勉強時間を少しでも捻出しようと、新幹線で塾にやって来た。新幹線だと普通列車より、1時間長く英語の勉強時間が取れる。
    おまけに、アメフトの練習は15時に終わる。少し休憩してくればいいものを、夕食時間も入れずに17時にコウタロウは時間設定してきた。ギリギリの時間設定にコウタロウの本気が見える。コウタロウのモチベーションの高さは、もちろん私も十分理解している。
     
    でも私は激怒した。遅刻にコウタロウの依存心をかぎとったからだ。彼は私に頼りきっている。素直な男だが、なかなか自分では勉強できない。中1以来6年半、自宅の勉強部屋より塾の自習室にいる時間の方がはるかに長い。私と一心同体でやって来た。個人でなく私と彼のチームで勉強してきた。彼はサッカーやアメフトのチームワークは熟知している男だが、陸上選手の孤独を知らない。
    コウタロウは組織の潤滑油にはなれる、でも起爆剤にはなれない。いや、コウタロウは組織の潤滑油でいいんだ。参謀でいい。ただリーダーの孤独を知っている主体的な潤滑油と、知らない傍観者的な潤滑油では180%違う。コウタロウは事態を楽観視し過ぎる。逆に私は悲観主義者だ。コウタロウは悲観的な部分を無意識に私に押し付けている。だが、今のままではダメだ。これではいつまでたっても私は安心できない。遅刻というものは傍観者だからできるものだ。緊張感があれば絶対に遅刻なんかしない。私は一生で、一度も人を待たせたことがない人間だ。他人の遅刻も絶対に許さない。
     
    同時に、私はコウタロウの素質を見抜いていた。この男にはオーラがある。いまの挫折は将来への礎になる絶対的確信があった。コウタロウの素質に対抗するには、私はガチンコで真正面からぶつかる必要があった。妥協は許されない。私の言葉はエスカレートしていった。
     
    私はコウタロウに言った。
    「ふつうだったら新幹線で塾に来たら、お前は偉いね、遅刻は仕方ないよ、疲れて遅れたんだろうと、ねぎらいの言葉をかけるのが普通だ。でも俺はこんなに怒っている。アメフトと英語を両立している大学生に、厳しく当たっている。どうしてだかわかるか?」
    「先生が僕に期待しているからです」
    「その通りだ。俺がお前に求めるものは高い。今度遅れたらどうする」
    「また坊主にします」
    俺はお前の散髪屋じゃない、と心で叫んだ。私は続けた。
    「そんなんじゃないんだよコウタロウ。お前をオレが怒っている根源的な理由は何かわかるか? お前は素直だ。性格は抜群だ。でもお前は広い世界に出て吸収しようとしない。もったいない。お前は広い世界に出れば、それだけ大きな人間になれる。1の環境なら1の人間にしかなれんが、100の環境に飛び込めば100の男になれる。だから俺は歯がゆい。歯がゆくて仕方ないんだ」
    コウタロウは黙っていた。
    「お前が自分をもう少しアピールしたら、誰も逆らえない。でもお前は小さな殻の中に閉じこもっている。地方にいたらお前はダメになる。イギリス留学はお前をパワーアップさせる最後のチャンスだ。でもお前は本気じゃない。本気にはまだまだ上がある。お前は本当の「上」を見たことがない。本気という「情報」がないし、見ようともしない。いま見ておかないと将来どころか就職の時に後悔する。東大、一橋、早稲田、慶応、京大、阪大、都会の大学の人間は能力もアピール力もある。彼らは学歴が凄いんじゃない。人間力が凄いヤツが多い。リスクを負う胆力がある。それに自分の生かし方を知っている。就活で都会に出て、いまのままで勝てるか? お前は一橋に落ちた。失ったものはお前が考えているよりはるかに大きいんだぞ。都会にはとんでもなく凄いヤツがいる。俺は現実がわかっているから怒ってる。悔しい。お前は現状認識がまるでできていない」
     
    私にはコウタロウが、航海できずに瀬戸内海のドックでくすぶっている、超ハイスペックな新造船に思えた。このまま港につながれたままでは、船体は錆びていく。一刻も早くイギリスへ送り込みたかった。私は続けた。
    「正直言う。お前が今の大学に行くと言った時、屈辱だった。病気がなければ絶対に反対した。俺は、もっと上があるのに妥協している奴らが嫌いだ。冒険より安定を求めている奴らは嫌だ。お前もどこか今の生活に満足している。俺は高校時代から、大学は東大しかないという、狭い価値観の中で生きてきた。妥協して早稲田か慶応だ。俺の考えは学歴社会の権化かもしれない。嫌な奴だと思ってくれてもかまわん。一向に構わん。でもお前には本音を言う。俺の言葉は、世に言う超一流大学に行った人間が、漠然と思っている本音だ。俺らは他のやつらが好き勝手に遊んでる時も勉強してきた。そして学歴を勝ち取った。就活の時も特別扱いされた。でも、俺は学歴を捨てて就職もせず塾の先生やってる。自分から捨てたから悔いはない。でもお前は捨てられたんだ。捨てると捨てられるじゃ違いすぎる。現状から抜け出すには留学しかないんだ。反論はあるか」
    コウタロウは黙っていた。

    「もう一つ言う。大学に入ってからのお前の話にはキレがない。重みがない。広さがない。東京へ行っていたら、お前はもっとパワーアップしていた。東京は日本の心臓部だ、人材だって新しい鮮血が集まる。地方みたいに淀んではいない。お前は高校時代の延長みたいな話しかできない。刺激を受けていない証拠だ。地方で東京の人間に負けない力をつけるには孤高でなければならない。読書量も決定的に足りない。俺は東京へ行って成長したお前と議論をして、負けるのが楽しみだった」

    私は遠慮なく続けた。
    「ここで反論かますのが本当だろう。俺の偏った下らない意見を粉砕してみろ。粉砕してくれ。あなたの考えは間違っていますと。都会より地方の方がすごいと。学歴なんかどうでもいい、人間力が大事だと。じゃあお前の人間力を言葉で見せろ。見せてくれ。学歴社会をぶち壊すには、外国へ出てパワーつけるか、渾身の力でアピールするか、とにかくものすごい力がいるんだ。俺は人間的魅力がない。頭の回転も鈍い。だから学歴を身につけた。自信がないから学歴を鎧にして生きてきた、そんなペラペラな俺くらい論破してみろよ。東京ちゅうのはそういうところだ」

    私はもはや、口から言葉を発してはいなかった。私の言葉は本音を超えていた。私の身体が電磁石になって、強烈な磁場が言葉になって体中の毛穴から飛び散っていた。コウタロウは沈黙を続けた。
    「それもできんのか。俺の詭弁に反論してくれないのか。学歴社会なんかクソだとどうして言ってくれない。お前は見損なった。もっと凄いヤツかと思っていた」

    最後に、私は「残りの勉強は自分でやれ」と言った。「帰れ」
    コウタロウはしばらく黙っていた。暴虐辛辣極まりない私に対する怒りを強い忍耐力で抑え、矛盾するが同時に淋しそうな表情を浮かべた。
    そして言った。
    「コウタロウは6年間、先生にお世話になりました。一橋大学まであと一歩の所まで伸ばしていただきました。僕にここまで力がつけていただいたのも、先生のおかげです」
    そして意を決し、荷物をまとめようとした。
    私は目を真っ赤にして「俺がお前をわが子同然にかわいがっとるんは、わかっとろうが」と言った。
    コウタロウは即座に涙目でうなずいた。
    私は「お前なら一人でできる。留学が決まったら報告しろ。いいな」と言った。
    コウタロウは「はい」と返事をして「ありがとうございました」と頭を下げて出て行った。

    次の日、私はコウタロウにメールを出した。
     
    今日のことは、ずっと考えていたことです。
    アメフトを頑張る「今のコウタロウ」を大事にしたい、しかし東京に華々しくデビューする「将来のコウタロウ」も見たい。矛盾した心理が交錯していました。だから厳しくなり過ぎてしまった。大学生なのに受験生並みの苦労をさせてしまった。許して下さい。
    俺は君の性格と才能を知っているから、未練がましく夢を諦められなかったのです。
    君はIELTS、一人でできると思う。しかし、もし留学がダメでも、チャンスはいくらでも転がっています。
    本気だけどリラックス。とにかく最後まで頑張って下さい。
    俺が見たいのは、俺が合格させたコウタロウではなく、自力で這い上がって合格したコウタロウです。だから手放したのです。君の人生は、君が決めて下さい。悩んで下さい。
    私はいったん、君の人生から退場します。
    しかし、いざという時は命を張って味方します。それだけは記憶に留めておいて下さい。
    長い間、俺に夢を見せてくれてありがとう。君は俺の誇りでした。
     
    返信遅くなってすみません。お体の調子に変化はありませんか。
    大学生になっても高校の延長線上のような環境の中で生活していると、一般人並の幸せも人生としてありなんじゃないかと思い始めたことは紛れもない事実です。
    それでも、大学生になっても頑張ってこれたのは、六年間で積み上げてきた高みを目指し続けるコウタロウが崩壊するのを先生に見られるのが怖かったからです。
    ある意味で"楽な"人生を生きている人を見返したいがために、成功を勝ち取ろうとしている自分もいます。
    アメフトは予想以上に時間をとられます。
    3時間の練習に加えて、筋トレ、ミーティング、個人練習、アサイメントの暗記。並大抵の体力、精神力ではアメフト以外のプラスαをこなすのは厳しいです。難関大、有名私立の部活なら、その人にとって付加価値になりますが、地方の大学生にとっては大学でも部活を頑張った、ただ真面目な学生だという評価にしかなりません。その割に得られるものは、部活動の域を超えません。団結力とか戦術理解力、絆、ありふれた言葉です。発展的に応用させることは可能ですが。
    今は、とにかくIELTSで点を取って、留学を決めることを目指して頑張ります。
    誇り"でした"。の過去形が再び現在形になる日を目指して。

     
    私がわざと嫌らしく「誇りでした」と過去形で書いた部分を、コウタロウは鋭く見抜いた。絶対に成長してやるという、強烈な意志が文面からほとばしっていた。
    また、コウタロウの「並大抵の体力、精神力ではアメフト以外のプラスαをこなすのは厳しいです」という言葉には「俺に並外れた体力、精神力がある。プラスαをこなせるのは俺だけだ!見てろよ!」という自負心があった。コウタロウがぶつけてきた意地を、私が見逃すはずはなかった。
     
    コウタロウは「ナルシスト」だ。自己愛が強い。でもその自己愛は空疎なものではない。コウタロウが自分を愛せるのは、努力を続けてきた自分が誇りだからだ。自分を愛せる人は、自分に自信がある人だ。一生懸命生きている人間を、他人だろうが自分だろうが愛せるのは自然の摂理だ。コウタロウから「自分が嫌い」という言葉を聞いたことなど一度もない。努力家にはナルシストが多い。コウタロウはイチロー並みのナルシストだ。ナルシストだから、もっと自分を愛したいがために、負けん気を発揮して努力を続ける。
    コウタロウと同じく私もナルシストだった。スパルタ特訓の間、私もコウタロウも、自分たちは偉いんだというプライドを絶えず持っていた。俺らはカッコいいことをしているんだという意識があった。
    だからこそハードな訓練にも耐えた。俺らは凄えことやってんだ、お前らにできるんかという意地があった。コウタロウが人生を振り返ったとき「あのときもっと勉強しておけば良かった」という後悔は絶対にない。それくらいやったんだ俺らは。
     
    コウタロウはどう言うかわからないが、私とコウタロウのスパルタには根底に「遊び心」があった。2人とも、どこかで厳しい師匠と、修業に耐える弟子を演じていた。
    私もコウタロウも、本来は自由闊達な人間だ。2人ともよく笑う。間違っても頭が固い封建主義的な人間ではない。だが現実問題として、IELTSの試験までには時間がない、詰め込むにはハードな訓練が一番効率的だ。私もコウタロウも合理主義者だ。だから互いの暗黙の了解のもと、効率が最もいいスパルタ芝居を本気で演じた。「スパルタ劇場」の舞台に立っている姿は美しかった。舞台上ではいつも、コウタロウが都会や外国で生きていくため、厳しい言葉をかけ続けた。演技の分だけ真剣勝負だった。ハードだった。容赦はできなかった。
     
    そうこうしているうちに、イギリス留学を決めるIELTSのテストは近づいていた。最後の最後になって、私はコウタロウを放り出した。もちろんコウタロウの自主性を信じたからだ。コウタロウは強制したから自主性を失うような、やわな男ではない。強制するからこそ「俺はここまでできるんだ」と可能性の想像力を広げられる男だ。いままで私はコウタロウに大量の丼飯を食わせ、胃袋を大きくしてきた。これからコウタロウは大きくなった胃袋に、自分でメシをガッツリ詰め込めばいい。
     
    コウタロウは塾を去った。
    もちろん舞台上の「演技」だった。
    お互いまた一緒に戦うことは、言葉はなくてもわかっていた。
     
    私には別の心配事があった。コウタロウが留学に失敗した時のことだ。1年待って留学に再チャレンジするか、岡大でアメフト頑張って、司法試験を受験する道を選ぶか、それとも・・・
    私は、留学できなかった場合の打開策を考えていた。コウタロウには人生一度でいいから、私が体験した、いや、私以上の広く刺激的な世界を見せたかった。

    私には、新しいアイディアが閃いた。
     
    コウタロウは一橋大学に不合格になった。
    Twitterで「見てろよ、俺の6年後を」と書いた。
    しかし、私が新たに企んだ計画は、6年後どころか1年後に「倍返し」できるものだった。
    私は45歳。花のバブル組だ。「半沢直樹」と同じ仕事盛りの精気が宿っていた。
    コウタロウも、私以上の熱量を、愛嬌のある笑顔の底に宿していた。
    2人の「倍返し」計画がはじまった。
     
    (つづく)



    8月・イギリスを遠くに見据え、中国大陸をにらみつけるコウタロウ

     
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