猫ギターの教育論

尾道市向島の塾「US塾」塾長のブログ 早稲田大学・開成高校出身 本音が飛び交う、少し「上から目線」の教育論
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日本一素直な男・コウタロウ(24)
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    コウタロウの英国留学を決める鍵となるIELTSの試験は9月に2回、10月に面接、11月に結果発表である。
    もし英国留学できなかったらどうするか。1年間待てば再びチャンスがあるが、緊張感を保つのは難しい。留学を一発目で決められなかった時の策を私は練っていた。

    それは、再び大学受験をすることだ。
    コウタロウは一橋大学法学部に僅差で不合格になった。あと英語和訳1問、数学半問だった。社会学部を受験していれば合格していた。
    苦手科目は数学である。センターも二次も数学は壊滅状態だった。英語と国語と社会で点を稼いで、あと一歩のところまで追い詰めた。また、コウタロウは古文も得意ではない。センターでは50点満点中10点しか取れなかった。もし8月終わりの段階で大学受験し直すとして、センターまで4ヶ月半。数学をやっても追いつけない。古文も難しい。再び大学受験なんて無謀だ。数学で再びアトピーを発症したら最悪の事態だ。

    しかし、一つだけコウタロウが狙える難関大学があった。
    その大学は、英語の力で合格できる大学だ。コウタロウの英語力は、IELTSの勉強で鍛え上げられている。いまでは予備校の授業より格段にハイレベルな英文と格闘している。単語力に関して言えばTOEIC900点を狙えるラインまでついた。現役時代よりも英語力は格段に伸びている。問題ないどころか武器にできる。

    そして、コウタロウには日本語の文章力がある。数学も苦手だとはいえ、コウタロウが通っていた藤本塾の先生のおかげで手を抜かずにやってきたおかげで、論理的な文章を書ける。文章が清潔だし情感がこもっている。贔屓目で恐縮だが、普通の大学生が書く文章ではない。小論文を書かせたら惚れ惚れする文を書く。教養や知識も十二分にある。
    さらに彼は社会の暗記能力も抜群だ。社会に対する好奇心も強い。日本一難しいと言われる一橋の世界史でも、本番ではいい答案が書けたと思う。世界史の流れは記憶に残っているはずだ。半年間のブランクでも、葉っぱは枯れ落ちたが太い幹は残っている。

    コウタロウの得意な英語と小論文と社会だけで勝負でき、苦手な数学や古文が試験科目にない大学。実績ネームバリューともに抜群で、奨学金が充実し、私立の割に学費が安い大学。コウタロウのプライドを満たせる大学。エンジョイしながら試験勉強ができる大学。「倍返し」を成し遂げられる大学。

    それは慶應義塾大学しかない。
     
    慶應は、入試科目が英語・社会・小論文の3教科。英語で勉強継続力、社会で知的好奇心、小論文で論理思考を試す。試験問題には、まじめで、おもしろくて、かしこい若者に来てほしいというメッセージがこもっている。国語が入試科目にないのが潔く、日本の国語教育をあまり信用していない。福沢諭吉の古文嫌い、儒学嫌いが入試科目に反映しているようだ。 

    慶應は一流企業の就職が抜群に良く、一流企業の社長や役員の輩出数も率も図抜けている。地方の若者が「赤と黒」のようにのし上がるには最高の環境だ。 
    また、慶應は就職実績もいいが、入社してからも昇進が速い気がする。学歴が関係あるのは入社の時だけと言うが、慶應には三田会という最強の組織がある。大企業には「慶應専用出世エスカレーター」がありそうに見えるのは錯覚だろうか。
    メガバンクが舞台の「半沢直樹」でも、主人公の半沢は慶應大学経済学部出身である。同期の渡真利も遠藤も慶應出身で、協力し合って巨敵から身を守り倒していく。このドラマは別の視点で言えば、慶應大学の同期が互いに協力し、銀行内での地位を高めあう「学閥」の話にも読める。

    慶應は「東京」の大学というイメージが強い。幼稚舎から上がってきた学生の文化資本、いや文化を抜いたただの「資本」の豊かさに地方の若者は圧倒される。中学や高校から塾生になった内部進学者、大学から慶應生、さまざまな経歴の大学生が集まる、複雑だが「日本社会各層のサラダボウル」みたいに面白い大学だ。
    首都圏では絶大な人気を誇る反面、地方から慶応大学を狙う高校生は少なくなっている。慶應の受験科目は公立高校のまっとうなカリキュラムから逸脱しているからだ。英語の配点が大きく肥大化し、社会が難しく、国語がなくて小論文がある。地方の高校生にとって、慶應の入試は科目が「いびつ」で、しかも英語がべらぼうに難しい。外国の大学を受験するようなもので、「慶應留学」の覚悟がいる。
    地方の高校の先生は、大学時代に教員になるための勉強を重ねてきたため、就職活動の実態を知らない。だから進路指導で地方の国立を薦めがちだ。だが首都圏で就職を考えると絶対に早慶かG-MARCH。都会の企業には地方を跳ね返す鉄の壁がある。
    また、慶應出身の学校の先生は異常に少ない。慶應のOBは実業界に入っていく。実力知名度の割に慶應OBは小中高生とは接点がない。だから地方の小中高生にとって慶應は謎の大学である。「慶應の社会人」のカッコ良さが身体で理解できず、地方の高校生からは、別の世界の大学として敬遠されがちだ。慶應は地方の高校生にとって知名度はあるが、現実的な進学先にはなりにくい現状は、いかんともしがたい。
     
    だが、東京に長年住んでいた私にとって、慶應の魅力は語り尽くせない。
    慶應の長所は、大学に入ってからじっくり将来の職業が選べることだ。一流企業が本社を置く東京に位置しているから情報が多く、職のヴァラエティが豪華絢爛ディナーのように並び、努力すれば好きなご馳走が食べられる。「将来大物になるぜ」と野心だけ大きくても、面白い奴だと企業が迎えてくれる。
    早稲田や慶應には、東大を落ちて不本意な進学をした学生が多い。だが彼らが強いのは、もともとポテンシャルが高い人間がコンプレックスを抱き、怨念をポジティブなパワーに変えてきたからだ。潜在能力が劣等感によって火をつけられる。いわゆる「東大落ち」のパワーが早慶に「東大何するものぞ」と刺激を与えている。

    地方公立高校の成績優秀で野心を抱いた子が、なぜもっと早慶を受験しないのか不思議だ。東京は素晴らしい街だし、大学は楽しく、環境は刺激的だし、就職は抜群に強い。奨学金も充実している。どうして若い時代を早慶で楽しまないのか、なぜ地方からの「下剋上」に早稲田慶應を利用しないのか。早慶のキャンパスには、若者の才能と伸ばし夢を実現する肥料がたっぷり撒かれている感じがするのだ。
    半沢直樹は、地方の町工場経営者だったお父さんが、中学生の時に自殺した母子家庭だった。おそらく奨学金を得て慶応大学経済学部に入学したのだろう。地方の貧しいが野心と才能ある青年に、慶應大学は懐を広げ待っている。
     
    コウタロウに慶應大学は、受験科目の面でも、キャンパスライフの魅力でも、最適の大学だと私の目からは見えた。実は私は6月の留学の勉強を始める時点で、コウタロウには内緒にしていたが、慶應受験は頭に入れていた。日本一難しいといわれる英語を制したら慶應に合格できる。だから私は留学試験のカリキュラムを組みながら、同時に慶應の過去問に即したテキストを選択していた。留学の勉強をしながら、慶應の受験勉強も同時進行しているという、二重のからくりを持つカリキュラムを組んでいた。悪く言えば、コウタロウを騙していたわけだ。

    たとえば単語集は私立に強い「DUO」を使った。「DUO」は単語だけでなく、慶應に頻出する熟語問題の暗記もできる。また読解は慶應の問題と文章傾向が似ている「Core」を用いた。そして慶應法学部はセンターの第6問のように、長文を読み内容一致の選択肢を解かせる形式だから、類義語には特にこだわる授業の進め方をした。
    また、Z会の教材の中で最強の「Advanced1100」をメインに使ったのは、慶應法学部対策のためだ。この教材は英検一級レベルの難しい単語がズラズラ並んでいる。慶應法学部の問題はここ2年間、難単語の意味を類推する問題が出題されていて、単語の難しいテキストを使って、意味がわからない単語を類推する力を日常的につけていれば、慶應の入試問題を解く訓練にそのままつながる。
    それにプラスして「Advanced1100」は英字新聞や雑誌から抜粋した文章が並んでおり、読みこなせば小論文の書く上での教養が身につく。流し読みではなく英語で精読しているのだから頭に教養がガッツリ焼きつく。英語と小論文の一石二鳥を「Advanced1100」で狙ったのだ。

    そして、コウタロウが予備校生でなく大学生であることが、小論文ではアドバンテージだ。小論文を書く上で、コウタロウには大学の授業が役に立っている。大学で法学部の授業を聞き、大学教授が好みそうな論理展開など「文章の匂い」を肌で感じているはずだ。しかも慶應法学部の小論文のネタは法学に関する話題が多い。予備校で中途半端にテクニックを教えられるより、アカデミズムの生の現場にいる。
     
    問題は世界史だ。世界史は半年間やっていない。だが、世界史の用語暗記もコウタロウなら3ヵ月で可能だ。たしかに慶應の社会は難しい。選択肢のカルトクイズみたいな問題ばかりで、教科書と世界史用語集の端から端まで記憶しなければならない。時事問題さえ出る。でもコウタロウは大学に入ってアメフトやりながら、TOEFLの英単語を2000個2週間で暗記した。記憶力も精神力もある。現役時代には一橋の世界史の論述問題でみっちり鍛えられた。歴史の流れは把握している。あとは枝葉末節の用語を暗記すればいい。暗記は筋トレのように楽しいはずだ。暗記すればするほど筋肉がつくのを肌で感じることができるだろう。
     
    最大の利点は、慶應大学なら完全に私のテリトリーだということだ。私自身、宅浪で早稲田をめざしたし、塾講師として私立文系大学指導経験も豊富だ。留学への英語指導はアマチュアだが、慶應ならプロだ。ノウハウは間欠泉のように沸き上がってくる。英語・社会・小論文、すべての科目を私の管轄下に置ける。
    留学は合格可能性がわからない。岡大法学部から2人しか選ばれない。ライバルの強さがわからないし、IELTSで何点取れば及第点なのかも知らない。敵の強さがわからない勝負ほど困ることはない。ある時は留学の可能性は20%ぐらいだと弱気になり、またある時は既に合格ラインを超えているんだと強気にもなった。ゴールが見えないマラソンを走っているようなものだ。私は正直、神経質になった。
    逆に、大学受験なら合格可能性は読みやすい。コウタロウが現役時代、一橋大学の合格可能性は60%ぐらいだと考えていた。ではいま現在の慶應合格可能性を、私のカンに基づいてパーセンテージで表すと、法学部60%、経済学部70%、商学部80%。どれか1つの学部に合格する可能性は、きわめて100%に近いと推測した。
    慶應なら英語・世界史・小論文の3科目、コウタロウを苦しめた数学や生物もない。健康管理に気をつけ、アトピーの発症がなければ、確実に慶應に合格できると踏んだ。俺とコウタロウが組んだら、絶対に落ちるわけがない。
    俺が早稲田でコウタロウが慶應。2人が「ライバル関係」になると想像すれば、胸がはちきれそうだった。しかもコウタロウは慶応アメフト部に入部する。最強だ。

    留学指導を始めてからの私は、コウタロウに対して厳しかった。「お前は都会の大学生と大差がついている。留学しか道がない」と口を酸っぱくして言った。お盆には都会から同級生が帰ってきて、いっしょに飲んでいた。都会的に垢抜け、話上手になり、競争にさらされタフになった同級生の変化を肌で感じたはずだ。コウタロウも一橋大で東京をめざした男だ。悔しくないはずがない。
    ここで一発、慶應で「倍返し」だ。
     
    私は度胸を据えて、コウタロウに「留学がダメなら慶應を受けてみないか」と誘ってみた。
    だが、コウタロウは即答を避けた。
     
    (つづく)


     
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