猫ギターの教育論

尾道市向島の塾「US塾」塾長のブログ 早稲田大学・開成高校出身 本音が飛び交う、少し「上から目線」の教育論
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夏期講習会の継続率
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    夏期講習会もようやく終わり。夏講は塾業界で禄を食む人間が1年で2番目につらい時期である(1番は当然冬講から受験にかけての時期)
    夏講の最後の日にはテストをする塾が多いのだが、夏講最後のテスト結果は講師にとって結構気になるもので、夏に子供がどれだけ学力が伸びたか格好の指標になる。夏講の努力の汗がどれだけ実になったか、講師としての能力を試されている気になる。

    私が大手塾の時間講師だった時、私がいた分教室の時間講師たちは、他教室とのテストの平均点競争に異常に燃えていた。特に私は。
    夏講の最終日、まとめテストが終わる。生徒の答案を集めて、講師室では夜遅くまで採点が続く。
    採点しながら講師たちは口々に、
    「おっ、吉田の数学上がったなあ」
    「丸山の社会アカンわ、点が落ちとる」
    「あれほど言ったのに、百済と新羅の位置が逆になってる。なんじゃい」
    「隆弘のバカ、 y=5x+6 を y=5+6 なんて下らんミスしとる」
    と自分自身に向けてなのか、それとも他の講師に向けてなのかわからない叫びをあげながら、活気ある採点風景が続く。
    採点が終わり、点数を集計し平均点を出す。事務のお姉さんがパソコンに点数を入力する。

    翌日には県内各教室の各教科・全教科の平均点がファックスで送られてくる。
    他の教室の平均点を見ながら、時間講師たちは一喜一憂する。
    「うちは数学は新潟県内トップ。よっしゃあ! 新潟中央校よりうちの方が高いぞ」
    「柏崎校の社会は異様に点数が高いな、生徒に答え教えとるんとちゃうか?」
    「長岡校の国語の平均点は高い。長岡校には藤森先生がいるからなあ。さすが。今度は勝つぞ!」
    時間講師たちは、まるで高校野球の監督やコーチみたいに、自分の教室の生徒の平均点を上げることに全力を傾けたものだ。
    またそんな教室間のライバル意識が、進学実績のが上がることにつながったのである。

    ところが、正社員である教室長は、他教室との平均点比較なんか全く気にしない。彼らが気にする唯一の数値は、夏講から通常ゼミへの「継続率」なのである。
    継続率というのは、塾に夏期講習会だけ申し込んだ子供のうち、何人が9月からも続けて塾に来るのか、その割合を示す数値である。
    たとえば夏講に中3生が30人申し込んだとする。そのうち9月から引き続き21人塾に来るとすれば、継続率は70%ということになる。
    つまり、夏講で塾の指導方針を見てから引き続き入塾するか決めようとする人や、夏講だけしか塾に通うつもりがなかった人を、いかに9月以降塾に引き止めることができたかが、継続率という数値の高低に表れる。

    継続率とは大手塾の社員に課せられた「ノルマ」である。夏講が成功か不成功かは、会社にとっては生徒の成績の伸びではなく、継続率によって判断される。教室長は継続率が悪いと会議で上から叱られるので気が抜けない。継続率には出世がかかっているのだ。

    夏講も中盤に差し掛かると、講師室に夏講参加者の名前が張られる。そして9月から継続することが決まると、名前の横に文房具屋で買ってきた赤いシールが張られ、まるで選挙の時の政党本部みたいな状況になる。
    そして夏講後半の講師ミーティングは、継続率のことばかりが話題になる。

    教室長は、
    「講師のみなさん、朝の授業の20分ぐらい前に教室に入って、夏講だけ来るつもりの子に、それとなく継続するか聞いてくれませんか」
    「中3進学クラスの石丸彰洋じゃけど、9月から来るか直接聞いて欲しいんよ」
    「中2基礎クラスの村尾康子と田上泉と安浦綾香と篠田奈津子の4人は友達じゃけえ、4人全員来るか全員来ないかどちらかなんよ。4人来たら大きいで。山野さん(講師の名前)、この子らの親に電話入れてプッシュしてみて下さい」
    と、講師に対して継続率アップのための指示にあれこれ忙しい。

    正直言って継続率が上がっても、時間講師に直接メリットがあるわけではない。
    継続して生徒数が増えても講師の給料が上がるわけでもない。得するのは会社だけである。継続率は会社のメリットにはなるが講師のメリットにはならない。継続率という数値に関して、会社と講師の利害関係はかなりずれる。

    というわけだから、継続率に一生懸命にならざるをえない教室長に時間講師が従うかどうかは、教室長の人柄に左右されるところが大きい。
    時間講師を評価してくれる教室長だったら、彼を男にするために時間講師は一丸となって協力する。継続率を下げて教室長が左遷されて去ってしまったら仕事がやりにくいし、また良い教室長が指揮する教室は、何事にも積極志向でどんなことでも誠心誠意全力になって取り組む環境ができているので、継続率の上昇に何の疑問も挟まずに素直に会社の方針に従う。
    壁の名簿に赤いシールが張られるたびに、社員も講師も喜んで自発的に拍手をする。

    しかし教室長に人望がなかったら、まさに面従腹背の世界である。時間講師は嫌いな教室長の出世のためにわざわざ継続率を上げてやる必要などない。時間講師たちは「何で俺があの教室長のために営業をせなあかんの?」と投げやりになるし、むしろ継続率を下げて教室長が上司から叱られるのはいい気味で、責任を取らされてどこか他の教室に飛ばされてしまえばいいと心の底では思っている。

    そんな人望のない教室長のために継続率を上げようとする時間講師がいるとすれば、それは根が本当に素直で誠実な人か、あるいは親に積極的に電話をかけて自分のファンにして、いつか教室長の寝首をかいて独立して塾を作ってやろうという魂胆のある人のどちらかである。

    たいていの講師は、「この子には来て欲しい」と思う子は熱心に誘うが(つうか、塾に馴染んだ子は講師側が誘わなくても勝手に阿吽の呼吸で継続するのであるが)、そうじゃないと熱心に誘ったりはしない。
    塾に来て欲しくない向学心の薄い子に対して、継続率アップのため心ならずも「ねえ、9月からも続けて塾に来ない?」と誘って、「え〜、あたしもう来ないよ〜」なんて生意気に振られてしまったら腹立たしいことこの上ない。だからそんな奴に対して賢明な時間講師は声をかけない。

    そんな真面目にやっている子に悪影響を与える態度も学力もメチャクチャな子供に対しても、商売気と出世欲が露骨な人望のない教室長は熱心に継続するよう誘う。

    教室長「ねえ。9月からも来なさいやあ。成績伸びるでえ」
    子供 「遊びたいから来ないもん」
    教室長「そんなこと言わんで、来いやあ。来てくれよお」
    子供 「行ってあげたいけど、だめ」

    やる気も可愛げもない生意気なガキに対して、猫なで声で継続を迫る教室長のアホな会話を聞いているとやりきれない。

    しかし時間講師から個人塾の塾長に転進した今では、継続率も塾を維持していく上で大事な数値だということが身にしみてわかる。かといって時間講師時代のような、¥こだわりも決して疎かにしてはならない。
    個人塾の経営者は、金にうるさい経営者と、学力向上にシビアな講師が合体していなくてはならないのだ。


     
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