猫ギターの教育論

尾道市向島の塾「US塾」塾長のブログ 早稲田大学・開成高校出身 本音が飛び交う、少し「上から目線」の教育論
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状況説明の名手は、人を熱くする
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    大衆に爆発的に愛される人や作品の共通点。それは「状況説明」が抜群にうまいことだ。客を世界観に誘導するために、丁寧に、しかも楽しく状況説明をする。
    3人例を挙げてみよう。
     
    黒澤明の『七人の侍』は日本映画オールタイムベスト10では1位2位を争う名画だ。
    戦国時代が舞台で、収穫期に作物を盗みに襲ってくる野武士を追い払うため侍を雇う農民の話だが、3時間以上ある上映時間の2時間半が、最後の合戦シーンへの状況説明になっている。農民が村を守ってくれる侍を探すプロセス、村で一緒に住む侍と農民の人間関係、村を守る作戦会議が2時間半も続き、合戦シーンは最後の30分だけである。
    この道には人員を何人確保し、野武士を何人やっつけるか、作戦を具体的に図示しながら、合戦への緊張が高まっていく。
    状況説明の巧みさが、観客を合戦にシュミレーションゲームのようにのめり込ませる。下手なシナリオの映画は観客に疎外感を味わせるが、『七人の侍』は映画と観客の距離感が極めて近い。2時間半もの壮大な状況説明が『七人の侍』を名画にした。
     
    立川志の輔はチケットが日本で最も取りづらい落語家の一人だ。独演会は数分でチケットが売り切れる。志の輔人気はひとえに状況説明が「わかりやすい」ことが原因である。古典落語という芸能はそれ自体難解で、本質的に「わかる奴だけわかればいい」という性格を秘めているが、志の輔の落語にはそれがない。視線が好事家でなく落語の素人に向いている。
    志の輔は古典落語を語るとき、マクラを時代背景の説明に費やすことが多い。このマクラがわかりやすく面白い。江戸時代は3年に1回は閏月があり、その年は1年は13ヵ月だったのが、明治になって太陽暦に変わった。この知識がないとわからない演目の時、志の輔は上演時間30分のうち10分を状況説明に使った。話が難しくなりそうになると「ついてこれますかこの話?」と客に振って笑いを取る。この間が絶妙である。
     
    松岡修造は熱いのに暑苦しくないのは、解説がクールでわかりやすいからだ。
    松岡修造は錦織圭の師匠だが、錦織圭の凄さを、素人にはわからないプロの視点でわかりやすく語る。テニスのルールも知らない私のような素人が、錦織圭のラリーの凄さを知ったかぶりで語れるのは、松岡の状況説明の巧みさのおかげである。
    「報道ステーション」の松岡の解説で驚いたのは、なんと「サーブを返すことをリターンと言います」と、テニスのルールの初歩の初歩を語っていたことだ。にわかに錦織に注目し始めたテニスのルールを知らない人に向けた配慮だろう。素人をテニスの世界に引き込む状況説明で、一人でも多くテニスに巻き込もうとする心配り。熱いだけの人ではない。
     
    状況説明の大切さは、もちろん授業にも当てはまる。各単元に導入する際の状況説明こそが、授業の成功のカギを握っている。
    映画で状況説明がない合戦シーンには客は乗れず、時代背景がわからない落語は眠く、ルールを知らないスポーツ試合観戦が退屈なように、予備知識がない授業は理解不可能だ。
    勉強でつまずいた子には、膨大な量の状況説明が必要なのが厄介だ。社会が短期で伸びやすいのは、比較的状況説明が短くてすむからだが、数学が伸びにくいのは、状況説明に膨大な時間がかかるからだ。
    小学校で算数の割合や分数につまずいた子に、中2で一次関数を教えるのに、どれだけ状況説明の時間と労力が必要か。
    子どもが勉強を楽しめるには、丁寧な状況説明で子どもに疎外感を与えず、「勉強のこっち側」の人間にする気づかいが必要なのだ。子どもを勉強の側に引きずり込んでしまえば、あとは自分たちで勝手にやってくれる。
     
    とにかく、頭のいい論理的な語り口の状況説明は、聴き手に取って快感だ。林修など状況説明の技術だけでテレビの人気者になったと言っても過言ではない。
    また司馬遼太郎の本があんなに厚いのは、他の歴史小説家に比べてはるかに多く状況説明に紙数を割いているからだ。
    わかりやすい状況説明と言えば池上彰の存在を忘れてはならないが、池上は人に関心を持たせるには、状況説明で相手を「ノせる」というニュアンスのことを書いていた。
    人が理解しにくいことを語るとき、最初に思い切って状況説明に時間や紙数を取ることは、聴き手や読み手を熱くし、思考をドライブさせる。人を熱くする語り手は、状況説明の名手なのだ。



     
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