猫ギターの教育論

尾道市向島の塾「US塾」塾長のブログ 早稲田大学・開成高校出身 本音が飛び交う、少し「上から目線」の教育論
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俳優から学ぶ暗記法の真髄
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    勉強で嫌なのは、やっぱり暗記である。
    わたしも一応受験生OBだから、暗記のつらさはよくわかる。

    受験生時代、英単語と古文単語、日本史の用語は必死で暗記した。日本史の用語はマイナーな部分まで押さえておかねばならず、特に古代の仏像や工芸品の名前の暗記には参った。
    「法隆寺夢違観音像」「中宮寺天寿国繍帳」「法隆寺玉虫厨子施身聞偈図」などと、「こんなん覚えてどないすんねん」と文句の一つもつけたくなるような細かい用語が、私立文系の大学入試には頻出する。だから根気良く執念深く隅から隅まで覚えた。
    ドラえもんの道具で一番何が欲しいかと尋ねられたら迷うが、受験生時代なら迷わず「アンキパン」と答えただろう。天皇家の系図や明治以降の政党の変遷表あたりの複雑な箇所を、アンキパンで記憶できたらどんなにいいだろうと考えた。

    さて大学生になって、つらい暗記作業とオサラバかと思いきや、第2外国語のドイツ語の単語と文法には参った。一例を挙げると、ドイツ語は定冠詞や不定冠詞が格や名詞の性に応じてコロコロ変化する。これがややこしい。
    英語なら定冠詞はtheだけ覚えておけばいいが、ドイツ語は男性名詞がder,des,dem,den、女性名詞がdas,des,dem,das、中性名詞がdie,der,der,die、複数がdie,der,den,dieと変わる。ドイツ語は万事こんな具合で、大学の定期試験前は地獄だった。

    しかし、そんなドイツ語より辛かったのは映画の台詞暗記である。私は大学時代自主映画の俳優をやっていた。どんな俳優だったかは
    こちらを参照していただくとして、台詞の暗記には泣かされ続けた。
    芸術タッチで、言葉より映像で語らせるタイプの作品は台詞が少なくて俳優は比較的楽だが、私が出演した映画はコメディーとかアクションが多く、特にコメディー映画は台詞が長くて、しかもカメラの長回しが好きな監督だと3分ぐらい8mmカメラが回りっぱなしである。
    おまけに8mmフィルムは値段が高く、俳優が台詞を間違えると、もう1回最初から演じなければならず貴重なフィルムが屑と化すので、俳優のプレッシャーは相当なものだった。

    アクションシーンは台詞が必然的に少なくなるが、別の問題点がある。
    アクションシーンは激しい動作でも、身体を常にカメラのフレーム内に収めておかなければならず、しかもフレーム内に身体がうまく収まったとしても、室内撮影の場合は照明に常に身体を当てていないと駄目で、とにかく俳優がちょっとでも勝手な動きをすれば、レンズから俳優の身体がはみ出したり、暗くて映らなくなってしまう。
    せっかく汗水かいて熱演したのに、映っていなかったら悲しい。だから、アクションシーンの演出はセンチ単位の厳密なもので、息を抜けなかった。

    とにかく映画撮影で、俳優は台詞と動作を完璧に暗記しておかなければならない。暗記していなければ監督やスタッフ、他の俳優に多大な迷惑をかけるし、映画の成功も覚束なくなる。

    俳優が台詞の暗記で苦しむのはプロも同じことで、「マルサの女」で伊丹十三の厳密な演出と、長ゼリフの暗記に苦労した津川雅彦はこう語っている。


    「マルサの女」では、テストとテストの合間でも、何度も何度も台詞を口に出して、おさらいをすることで精一杯だった。ただただ台詞を叩き込むだけで必死だった。

    でも、貴重な発見はあった。台詞を臓腑まに叩き込むコツは、忘れる「回数」と、口に出してしゃべる「回数」にかかっている事に気が付いた。
    どれだけ頑張って覚えても、一晩寝れば必ず忘れる。だから次の日また覚え直す、それで一歩覚えが深くなる。
    また、一晩寝て忘れて、覚え直す。そこでまた一歩!深く覚える。忘れる回数を多くする程、深く覚えられるんだ。

    僕の場合、二週間、つまり十四回忘れて覚え直すことが必要だった。また、杉村春子さんは「千回も言えば覚えるわよ」と事も無げにおっしゃる。小林桂樹さんは五百回。僕はせいぜい百回が限度だが、日数をかけて忘れる回数を多くすることでカバーしている。

    更に台詞を覚える回路を変える事も大切だ。
    まず脚本の全体の意味と流れを「頭」で掴む。次に台詞の字を「目」に焼き付ける。次に人に読んでもらい「耳」で覚える。そして自分でしゃべって「舌」と「口」に覚えさせる。「更にリハーサルで動いて「身体」に覚えさせる。
    覚える回路を増やすと、線が一つ切れても別の回路が繋がって台詞がスムーズに出てくる。最後は車を運転しながらでも、台詞が自在に言えるようになった事を確認して仕上げとする。


    津川雅彦の暗記法を、たった2行で要約するとこうだ。
      「忘れる回数を多くする程、深く覚えられる」
      「覚える回路を変える事も大切」

    暗記の回数を増やし、「頭」「目」「下と口」「身体」と回路を変える。受験生のための金言であろう。


     
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