猫ギターの教育論

尾道市向島の塾「US塾」塾長のブログ 早稲田大学・開成高校出身 本音が飛び交う、少し「上から目線」の教育論
kasami88★gmail.com
CALENDAR
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930 
<< June 2017 >>
RECOMMEND
SELECTED ENTRIES
CATEGORIES
ARCHIVES
twitter
猫ギター
MOBILE
qrcode
LINKS
PROFILE
OTHERS
無料ブログ作成サービス JUGEM
<< 子どもをほめる人は金目当て | main | 「叱るな、怒れ!」 >>
アメフト野郎!by航太郎(3)
0


    ■NFLはすべてが桁外れ
     
    イギリス留学中、ロンドンへアメフト観戦に出かけた。
    年に3回、ロンドンでもNFLの公式戦が行われる。
    ロンドン中心部から少し北にはずれたWembley Stadiumに到着した。
    イングランドサッカーの聖地であるが、この日はNFLのお祭り模様。地下鉄で僕のお気に入りチームのジャージを着ている人をたくさん見かけた。
     
    スタジアム外で行われているイベントには目もくれず、スタジアムに入った。
    エスカレーターで5階席まで上がり腰掛けた。グラウンドではスペシャルチームの選手たちがウォーミングアップをしていた。
     
    突然、目の前を何かが通り過ぎる。
    鳥かな? 
    鳥ではない。
    すぐに正体がわかった。
    パンターが蹴りあげたボールだった。
     
    ボールは5階席の僕の目線まで上がったあと、見事な放物線を描いて、選手が豆粒のように見えるグラウンドの谷底へと消えていった。
    NFLのパンターはとんでもなく高いボールを蹴るのは知っていたが、生で見て驚愕した。
    相手のプレッシャーも試合の緊張感もないリラックスした状態だと、ボールを自由自在に操れるらしい。どのように蹴ったら、こんな高さを出せるのか理解できなかった。
    この高いパントを見られただけでも、それなりの値段がしたチケット代を回収できたなと思った。
     
    ところで、僕がアメリカンフットボールというスポーツを最初に意識したのは高校生の時だった。同級生のサッカー部のキャプテンがNFLの大ファンで、シーズンが始まると毎日アメフトの話をしてくる。何がそんなに面白いのかを聞いても、百聞は一見に如かずだと、まずは試合の映像を見てみろと言われるだけだった。
     
    その頃はサッカーに一途だったので、半信半疑のまま、テレビでNFLの試合を見た。すぐに人間離れしたプレーに圧倒された。
    人を殺しに行くようなタックル、50ヤード以上のロングパス、腕の太さ、首の太さ、足の速さ、何もかもが人間離れししていて、
    「なんだ、このスポーツは!」
    と感じた。
     
    まず、運動神経が凄い。
    相手に触れること無く左右に揺さぶるだけでディフェンスを地面に倒すステップ。地上戦が拮抗したと感じたら、派手な空中戦。QBは弾丸のようなボールを正確なコントロールでディフェンスの間を通し、レシーバーに届ける。レシーバーは垂直跳び1mの身体能力を活かしてディフェンスの頭の上でキャッチする。
     
    スピードが凄い。
    身長2m体重100kgの選手が陸上短距離のスプリンターと同じくらいのスピードで走り、後ろから飛んで来る楕円の球をキャッチした瞬間、ディフェンスがキャッチした選手めがけて猛スピードでタックルをかます。その衝撃は車同士の交通事故にも匹敵するとも言われている。
     
    体格が凄い。
    身長2m体重140kgの選手がフィールド中央でぶつかり合う。ラインマン同士のぶつかり合いは、一つの土俵の中で5人対4〜7人の選手が作戦に基づいてチーム戦で相撲を取っているようなものだ。元横綱・武蔵丸も学生時代アメフトに青春を燃やした。アメリカのプロレスラーにはNFLに入ったものの怪我で試合に出場できず、数年で引退しプロレスに転向した人が多いそうだ。
     
    プレーも凄いがスタジアムも凄い。
    収容人数が多く、ビジョンがやたらとデカい。外から見るとスタジアムだとは思えない近代的な建造物のものも多い。
    僕が好きなスタジアムは、グリーンベイ・パッカーズのホームスタジアムであるランボー・フィールドだ。8万人以上収容できる巨大なスタジアムで、典型的なボウル型がシンプルで美しい。この形が好きすぎて、スタジアムの画像を検索して眺めながら何時間でも楽しめる。
    パッカーズはウィスコンシン州、ミシガン湖の北東部に位置する港町、グリーンベイを本拠地とする。NFLのシーズンは9月から翌年2月ころまでなので、冬は極寒の中で試合を行うが、どんなに寒くてもスタジアムを埋め尽くすファンのチーム愛は無尽蔵だし、冬にきれいに芝生を手入れするグラウンドキーパーの努力は計り知れない。

    マイク-スミス-グリーンベイ・パッカーズ-新ランボーフィールド.jpg

    gb_seat_1c.jpg

    ランボー・フィールド
     
    またパッカーズと同地区で争うミネソタ・バイキングスは新スタジアム”US Bank Stadium”の完成が間近だ。
    近代的な外観で、屋内スタジアムながら、太陽光をふんだんに採光できるようにしてある。シートはチームカラーの紫で、スコアボードも超巨大だ。
    バイキングスには東京ドームのようなドーム球場があったのだが、数年前の大雪の際に、積もった雪の重みで屋根が潰れてしまった。修繕はしたものの、それを機に新スタジアムを建設する計画がスタートした。
    ミネアポリスは寒く、12月にはマイナス10度で試合をすることも珍しくない。選手は白い息を吐き、観客は目出し帽を被っている。
    このスタジアムではQBのミススローやキッカーが短い距離のキックを失敗することがあったのだが、僕は寒さも少しは影響していると考えている。これからは最新の空調設備が整った屋内スタジアムが完成するので、より質の高い試合が見られるのではないかと期待している。

    tempusbs-031416-1-059--nfl_mezz_1280_1024.jpg

    1ee92a68-273c-479d-8134-e296d4da1d85.jpg

    US Bank Stadium
     
    スタジアムに響くのは、熱狂的ファンの声援である。
    「クラウドノイズ」をご存知だろうか?
    アメフトでは作戦の伝達は確実に行わなくてはいけない。1つのサインを聞けば11人全員が自分の役割を把握できるようになっているため、聴き逃したり、聞き間違えたりするとプレーが成立しない。
    クラウドノイズとは、敵チームの攻撃の際にプレーコールの伝達がしにくくなるように観客が大声を張り上げることだ。クラウドノイズでアウェイチームのオフェンスは混乱するため、観客の発するクラウドノイズは12人目のディフェンスと呼ばれている。
    人工的にスピーカーで音を発したり、ブブゼラのような楽器を使ったりすることは禁止されている。NFLにはクラウドノイズの大きさを競ったギネス記録があり、シアトル・シーホークスとカンザスシティー・チーフスがNFL一うるさいスタジアムの称号を巡って争っている。
    チーフスは142.2デシベルを記録した。これはジェットエンジンが間近で回っているほどの騒音だという。耳がおかしくなりそうだが、一度経験してみたい。
     
    高校時代からNFLに関してはある程度知識があったが、サッカーしかやったことのない僕が、まさか大学でアメフトをプレーするとはその時は考えもしなかった。


     
    岡大アメフト部・秋シーズン開幕
     
    僕は英国留学中もアメフト部に入部し、イギリス人とアメフトをした。 
    イギリス人はプレー中に、良くも悪くも1プレー1プレーに一喜一憂する。ともすれば泣きそうになる時もある。
    NFLやアメリカのカレッジフットボールの試合を見ていても、感情の出し方は激しい。
    良いプレーをした選手に対しては手荒く祝福し、パスをインターセプトされたりすると怒り悲しむ。相手のラフプレーに対しては、チーム全員が声を荒げる。タッチダウンしたり、QBサックをしたりしたあとは、ダンスなど独特の動きで事自己をアピールする。
     
    一方で、帰国して初めてスタンドから観戦したBADGERSの試合では、淡々とプレーしていて、冷静さを通り越して淡白な印象を受けた。その時、BADGERSをサイドラインが“うるさい”チームにしたいと思った。
     
    2016年9月、僕にとって2回目の関西リーグが幕を開けた。
     
    2015年現在関西学生リーグ1部は立命館大学、関西学院大学、関西大学、京都大学など8校で、2部はA ブロックとBブロックそれぞれ6チームの12チーム、3部はAからDまでそれぞれ6チームの24チームが所属している。
    上位グループの最下位と下位グループの1位が入れ替え戦を行い、下から二番目の大学が下位グループの2位と入れ替え戦を闘うシステムになっている。上位校が勝てば残留、下位チームが勝てば入れ替わりが起こる。
     
    2015シーズン、バジャーズは3部で戦った。
    目標は2部昇格である。
    岡大BADGERSが属する3部Bブロックは、天理大学、大阪経済大学、大阪市立大学、大阪工業大学、和歌山大学、岡山大学という組み合わせになった。


     
    下馬評は次の通り。
    圧倒的な攻撃力をもつ天理大学、
    一人ひとりの体が大きい大阪経済大学、
    ランパスのバランスが良く、岡山大学と同じようなチームの和歌山大学、
    この3チームが優位に立ち、その中でも天理大学か和歌山大学が抜けそうだというのが、シーズン前、関係者の予想だった。
    わが岡大は天理、和歌山に次ぐ3番手か、攻撃次第では優勝争いに絡むという評判だった。下馬評は必ずしも良くない。2部昇格するには、大阪工業大学と大阪市立大学戦での取りこぼしは絶対にやってはいけない。
     
    2015シーズンのBADGERSの目標は、2部昇格だけにとどまらず、2016シーズンに2部で勝つチームを作ること。
    現状としてBADGERSは毎年2部と3部の入れ替え戦に出場していて、その殆どで入れ替わっている。
    3部では王様だが、2部では勝てないエスカレーター状態から脱出したい。


     


    第1節 vs大阪工業大学
     〜オフェンスが本調子には遠い〜
     
    シーズン初戦vs大阪工業大学ROWDIES
    どんなスポーツでも、プロ・アマチュア関係なくリーグ戦の初戦は難しいというが、それを実感した試合だった。
    大阪工業大学は学生スタッフがおらず、選手の人数も少ない。体のサイズやプレーのスピードでも勝っている。
    言い方は失礼かもしれないが、格下相手に大差で勝たないといけないという不要な使命感や、プレッシャー、気合が空回りした試合だった。
    特にオフェンスの動きが固く、リズムに乗れないまま1本のタッチダウンを取っただけで前半を終了した。前半終了時点で岡山大7-0大工大。
    まずい。
    だが、ハーフタイムの修正を経てなんとか後半立て直し相手を突き放した。
    なんとか勝てた。
    ディフェンス陣の奮闘で勝てた試合だった。
    オフェンス陣にとっては、今日よりも強いディフェンスに対して前進し得点を重ねることができるのか、パスを決めることができるのかなど、2節以降に不安を残す結果となった。
     

    第1節 岡大 23−7大工大

     


    岡大アメフト部・ディフェンス陣紹介
     
    大工大戦で相手の得点を死守した、そして2016シーズンのキーとなりそうな岡大のディフェンスから3人、紹介しよう。
     
    まず、2年生DL#52西谷俊輝。
    DLはアイシールド21の栗田がディフェンスの時やっているポジションだ。
    西谷は目が大きく顔立ちがはっきりしているので、先日、大学の講義で本当に留学生に間違われたそうだ。ラグビーサモア代表にいそうな面構えだ。
    入部当初から筋肉の鎧を身にまとっていたが、1年間のトレーニングで169cmながら105kgまで体重が増えた。
    トレーニング棟でベンチプレスをするときに100kgのバーベルでウォーミングアップをしているのには一緒にトレーニングをして下さっているOBさんも感心していた。体の全てが太く、雪山を転がしたら綺麗な雪だるまになりそうな体型だ。
    体重100kg越えといっても、世間が想像するような脂肪たっぷりのプヨンプヨンな体ではなく、引き締まった100kgなので短距離を走らせても速い。また後背筋が大きいので直立した時に腕が閉じない。さらに僧帽筋が発達しているのと首が太いのとで、首が無いように見えるのはまさにラグビー選手のようだ。
    物怖じせずぶつかっていける性格はディフェンスにもってこいで、天性の低さも兼ね備えている。低いと相手の下に潜り込めるのでぶつかったときに相手をあおりやすい。
    今シーズンはアメフト野郎(2)で登場した窪田とともに相手オフェンスを破壊することが期待される。
     
    LB#47山本晃己は今年のディフェンスリーダー。アイシールドで言うと王城ホワイトナイツの進清十郎。
    山本は多くの幕末の志士たちを産んだ山口の萩出身。高校時代は柔道部で、いかつい体と顔をしているのとは裏腹にいじられ役で、後輩からもからかわれる。
    いつもご飯を作ってくれる彼女がほしいと叫んでいるが、米の上に人参を一本丸ごと置いてそのまま炊飯した写真をツイートした時には流石に心配にもなった。たいていのいじりには笑って受け入れる山本だが、唯一、髪の毛を触ると怒る。ちりちりなのを気にしているらしく、少しでも触ると襲いかかってきそうな目をするから怖くなってやめる。
    山本は今年ディフェンスリーダーに就任した。今は負傷中でリハビリしているが、シーズンにはピークを持ってくるに違いない。
    柔道部出身の山本は入部当初、足も遅くボールを扱うのが苦手で苦労していたが、文字通り雨の日もラントレをした日も毎日ひたすら走り続けた。もともと柔道で鍛えた筋肉隆々の肉体だったが、弛まぬトレーニングで筋肉が何倍にも膨れ上がった。
    激しいタックルで相手オフェンスを跳ね返してほしい。そしてチームが苦しい時、重い空気をブレイクするプレーを見せてくれるはずだ。
     
    最後に2年生DB#17戸田和真。
    子犬のような顔をしていて、いかにも女子からモテそうな雰囲気がある。野球部出身で先輩にいじられるが、それを楽しそうに受け入れる。厳しい野球部で鍛えられてきたんだということが伺える。
    僕が彼に活躍してほしい理由が一つある。それは、彼が僕と同じでアトピーを持っているということだ。彼がたまに痒そうにしているのを見ると辛そうだなと思うが、彼は笑顔でそれを弾き飛ばし痒みになんか負けない強い意志を持っている。
    1年間で10kg以上体重を増やし、2部で戦える体にはなった。BADGERSのCBの中では身長があり、また跳躍力もあるのでレシーバーとの競り合いにも負けない。ただ今はまだ恐る恐るプレーしている時があるので、相手を怖がらずに思いっきりよく楽しんでディフェンスしてもらいたい。ミスっても上回生がカバーするから。


     
    アトピー・アレルギーでもアメフトはできる
     
    アトピーだが、僕や戸田のように重度のアトピーの人がアメフトをするのは正直辛い。
    アメフトではヘルメットを被り、ショルダーパッドを装着する。激しい運動で大量に汗をかくが、防具をつけているので外に蒸発せず蒸れる。すると肌が猛烈に痒くなる時がある。しかし防具をつけているのでかけない。結果、痒いままイライラして集中できなくなる。
    雨の日に練習すると練習後、激しい痒みが襲ってくる。濡れた肌が乾き始めた時の痒みは簡単には治まらない。
    アトピーはすぐに完治するものではない。上手く付き合っていかなくてはいけない。その方法として、僕は練習中やアフター練習に入る前は必ず、その他にも頻繁に顔や首を水で流すようにしている。練習後はすぐに洗えるところは洗い、保湿のローションを塗る。更衣室のシャワーは水しか出ないので冬場はシャワーできないが、夏場は頭から水を被る。土のグラウンドで練習しているので、練習後何もしないと砂とホコリと汗で何重にも痒い。
    ただアトピーが悪化しそうだからといってアメフトを諦める必要もない。他のスポーツよりも肌への負担は大きいかもしれないが、対策は十分に取れるし実際にアトピーと上手く付き合いながら活躍している学生もいる。
     
    アトピーではないが、アレルギーを持っているNFLの選手がいる。ニューオリンズ・セインツのQBドリュー・ブリーズだ。彼はグルテン、牛乳、卵などの食物アレルギーがあり、食事制限をしている。因果関係があるかは不明だが、身長もNFLのQBとしては低身長の183cmだ。そのせいで地元のアメフト強豪校に進学できず、NFLのドラフト順位も下げられた。
    僕も食物アレルギーを持っている。だからブリーズが活躍すると勇気をもらえる。一度フェイスブックのページにメッセージを送ったことがある。(案の定、返信は来なかったが…)


     


    第2節 vs天理大学 CRUSING ORCS
     〜3部の強豪・天理大学との一戦〜
     
    2戦目にして山場を迎える。
    天理大学は2014シーズン、ある不祥事で主力選手が公式戦に出場できなかった影響で3部5位に甘んじていたが、2015シーズンは1部でもスターターを張れるレベルのエースレシーバー#88を擁し、圧倒的な攻撃力を誇るチームにのし上がってきた。前評判でも3部Bブロック優勝候補の最右翼だった。
     
    この試合、BADGERSに有利にはたらく要素がひとつある。9月23日秋分の日は毎シーズン決まって岡山でのホームゲームが開催されることだ。
    スタジアムは普段練習している大学のグラウンドから自転車で5分もかからない近距離にあり、試合前に岡山から大阪までの電車移動をしなくていい唯一の公式戦だ。
    J2のファジアーノ岡山がホームスタジアムとして使用する1万5千人以上収容する立派なスタンドがあり、天然芝も手入れが行き届いていて美しい。
    大学の友だちや他の体育会の学生、近隣に住まうOBさん、保護者が普段よりも多く応援に駆けつけてくれるので自然と気合も入る。
    そして応援団とチアが来てくれる唯一の公式戦でもある。スタジアムの屋根に反響して一層大きく聞こえる応援団の勇ましい声と、チアのダンスがスタンドの応援をリードし盛り上げてくれる。
     
    岡山大学応援団といえば団長の角谷謙斗さんが有名だ。同じ尾道北高校出身で、会うと気さくに声をかけてくださる。応援団の団長といえば堅気で孤高な存在というイメージアがあり、角谷さんも例外なく学ラン姿に角刈りで、眼力があり怖い人に見えるが、演舞の時以外はいつも笑顔でとてもフレンドリーだ。角谷さんはバイク好きで、熱烈なNHKの朝ドラとカープファン、お酒も好きな団長だ。
     
    14:00 キックオフ。晴れ。
    夏の太陽が照りつけている。



    岡山 シティライツスタジアム

     
    投げるQBと受けるWRは以心伝心
     
    天理戦、BADGERSが先制する。QB沖西からWR福井へのロングパス。
    QBが投げWRがキャッチする空中戦はアメフトの醍醐味だ。
     
    BADGERSのスタートQBは#2沖西将弥。
    180cm80kg、広島国泰寺高校野球部出身。
    髪を茶色く染め、女の子と会う時はワックスとスプレーで丁寧に髪をセットしてくるイケメンだ。
    祖父がボディービルダーでジムを経営しているといい、その影響か筋肉が大きい。上腕三頭筋が特に発達していて腕が太い。頭でイメージしたことをその通りにできる、生まれながらのアスリートで、1部で活躍する能力があるとコーチに言わしめた逸材だ。
    自分がヒーローだと信じて疑わず、負けん気の強さはだれにも負けない。だが、シャイで繊細な一面もあり、かわいげがある。
     
    昨シーズンのエースレシーバーはWR#11福井頌平。レシーバーとしては身長も高くないし、スピードもずば抜けてはいない。
    福ドンさんはフィジカルに自分の生きる道を見出した。ハードなウエイトトレーニングで男も惚れる肉体を手に入れた。派手さはないが堅実なキャッチングとブロッキングで信頼感は抜群。福ドンさんならどんなボールでもキャッチしてくれそうなワクワク感がある。
     
    この2人はチームで最初にグラウンドに現れ、最後までグラウンドに残ってパスを合わせていた。
    パスコースは前に何ヤード走ってこのタイミングで内に何ヤード入ってくる、というように正確に決められているが、試合では相手の激しいプレッシャーもあるので、少なからずズレは生じる。
    だから、ディフェンスの動きを想定しそれぞれで、言葉を交わさずとも考えが一致するまでに繰り返す。
    阿吽の呼吸だ。
     
    天理戦、沖西から放たれたボールは放物線を描きながらエンドゾーンへと飛んで行く。落下地点は文句なし。
    だがディフェンスも良くマークしている。
    ジャンプ一番、競り合った。
    赤のジャージに身を包んだ#11福井が相手の背後から手を伸ばし、ボールを包みこんだ。片手でのスーパーキャッチ。
    #11はスッと立ち上がり、ボールを天に突き上げた。
     
    BADGERS 7−0 ORCS
    BADGERSが幸先よく先制点をあげた。


     
    アメフトのキックで五郎丸ポーズは不可能
     
    だが、天理も負けてはいない。
    図抜けた力量を持つエースレシーバー#88へのパスが決まり、キャッチした後も岡大のディフェンスをひらひらと抜き去り前進していく。
    タッチダウン。
    あっという間に追いつかれた。
    BADGERS 7-7 ORCS
    その後も天理が#88へのパスで猛攻を仕掛けてきたが、ディフェンスが要所要所で相手を封じ、前半は7-7のまま終了した。
     
    後半、BADGERSに勝ち越しのチャンスが巡ってくる。
    第3Q、ゴール前7ヤードまでオフェンスが前進したところで4thダウンを迎える。
    タッチダウンとボーナスキックで7点追加したいところだが、ギャンブルに失敗して0点に終わるよりも、確実に3点を追加しようと言うのが岡大サイドラインの判断だった。
    ディフェンスが強く、拮抗した試合展開の場合、3点でもリードしていたほうが精神的に余裕も生まれる。
     
    アメフトとラグビーのキックは違う。
    ラグビーのキックは止まったボールを蹴る。だがアメフトのFGの場合、スナッパーがボールをスナップし、ホルダーがキャッチしたボールを地面に立てる、立てられたボールをキッカーが蹴る。
    ボールがスナップされた瞬間、キックされたボールをブロックしようと、ディフェンスの選手がイノシシのようにキッカーめがけて突進してくる。
    ラグビーはルーティンをこなし、じっくり蹴れる。だがアメフトは瞬間的に蹴らねばならない。
    アメフトのキックは、五郎丸ポーズをやっている暇なんかないのだ。
    おまけに、スナップが乱れたり、ホルダーがボールを立て損ねたりするとキックすらできない。
    したがって、スナッパー、ホルダー、キッカーは目隠ししてでもタイミングが合うぐらい息があっていないといけない。
    ラグビーのキックは個人技、アメフトのFGは団体戦なのだ。


     
    僕が決めた公式戦初のタッチダウン
     
    7-7の同点。僕のキックで3点を狙う。
    前の大工大戦でホルダーの沖西にホールドミスがあったので、助走を測る前に声をかけた。彼はお調子者で人一倍負けず嫌いだが、繊細で、おそらく前回の失敗からナーバスになっていると感じた。
    僕は言った。
    「リラックスして置けば良い。立っとるボールなら全部蹴るけ」

    静寂がスタジアムを包み込む。
    ボールがスナップされた。低く速いナイススナップ。
    ホルダー、お手玉。
    くそっ。
    ボールが転がる。
    ピンチ。
    だが、まだプレーは終わってはいない。
    キックは失敗でも、こぼれたボールを抱えてエンドゾーンまで持ち込めばタッチダウンだ。
    僕は咄嗟にボールを拾い上げ、腕に抱えた。
    相手が正面にきた。
    カットを切る。
    だが次の瞬間、右下から地獄へ道連れにしようと僕の足を引きずりこむような手が伸びてくる。
    ギリギリ足にかからない。
    前が開けた。
    僕はエンドゾーン左端を駆け抜けた。
    タッチダァーーーーン。
    6点追加!
     
    走っている時は何も聞こえなかったが、エンドゾーンからスタンドを見た時初めて、歓声とチアバルーンのバチバチ鳴る音が聞こえた。
    公式戦で僕が決めた、初めてのタッチダウンに興奮した。
    パスを決めた時や、ランでフレッシュを獲得した時とはまた違った快感が全身を流れた。
    自分が攻撃のドライブを締めくくる。高い山に登頂したような、弾けるような爽快感を味わった。
    BADGERS 13−7 ORCS
    やった。
    優勝候補の天理をリード。


     
    再逆転され敗戦。1点の重みに泣く
     
    だが、浮かれてもいられない。
    すぐにタッチダウン後のトライフォーキックがある。
    サイドライン、スタンドにいたBADGERSお応援する人全てがタッチダウンを喜んでいた。

    そんな中、一人だけ喜べない選手がいた。ホルダー、沖西だ。
    タッチダウンを取れたので結果オーライだが、二試合続けてのホールド失敗は屈辱以外の何物でもない。
    「さっきのは忘れて、これに集中」
    僕は沖西に言った。
    声をかけ、混乱状態を少しでも和らげようとした。
    ホルダーのミスは自分のミス。スナッパー、ホルダー、キッカーは一心同体。
    だが、またしてもホールドできなかった。
    1点取れず。
    13―7のまま。
     
    キックを決められず、14−7にすることができなかった。6点差は相手からすればTD一本とキックで逆転できる点差で、精神的には楽。相手に追加点を許さなければTD1本さえ取れば勝てるということで焦らなくていい。
    アメフトは、キックの1点が意外に重いスポーツ。
    この1点が試合を左右することになるのか。
     
    僕は沖西のホールドミスが、その後、彼のクオーターバッキングに影響を及ぼさないかだけが心配だった。
    繊細な沖西には、天衣無縫にプレイしてほしい。
    彼は『黒子のバスケ』の火神のように、ZONEに入ったら手が付けられないのだ。
    「今のは忘れて、1点なんか関係ないぐらい、タッチダウン取ってこい。」
    僕は沖西に言った。
    「大丈夫ですよ!俺、スーパースターなんで!」
    彼は答えた。
     
    その後、BADGERSは天理のエース#88を止めることができず逆転された。
    タッチダウンの6点とキックの1点、合計7点で13−14。
    試合をひっくり返された。
    悪い予感は当たった。
    1点が重い。 
    FGを蹴れるゾーンまでも遠い。
    わずかな残り時間で逆転をするためにスペシャルプレーを試みたが、結果は失敗。再逆転できずに試合は終わった。
     
    結果的にみるとキック失敗の1点が負けにつながった。
    杞憂は現実になった。 
    13−14。岡大、痛い敗戦。 
    2016シーズン2部で勝つという目標がある以上、残り試合は全て勝ち続けなければならない。
    下を向いている暇はない。


    第2節 岡大 13−14 天理大

     


    第3節、vs大阪市立大学 GOLDEN CEDARS
     〜キックが絶不調〜
     
    1勝1敗で迎えた大阪市立大学戦。
    大阪市立大学も1980年代、岡山大学を追うように1部に昇格したが、最近は3部に定着している。毎年5月に定期戦を行っており、試合後にはレセプションもあるので、選手の中には友だちもいる。
    2015年、春の定期戦では勝っている相手。春から比べるとどちらも成長しているが、BADGERSのほうが伸びたことを証明し、力の差を見せつけたい試合。

    大阪市立大とは怨恨試合だ。 
    実は、春の定期戦で両チームともQBの控えがいなかったため、QBへのタックル無しというルールで試合をした。QBとはそれほど重要なポジションである。だが、試合最終盤にQB沖西がタックルされて肘を脱臼する怪我をさせられた。
    沖西はその後2ヶ月プレーできなかった。
    その怒りを晴らすためにも、秋の市立戦は勝たなくてはいけない。
     
    だが僕は、この試合でキックの不調に悩まされることになる。
    試合はタッチダウンランで岡大が先制。7-0 BADGERSリード。
    幸先のいいスタート。
    第2Q、ゴール前9ヤードから4thダウン。
    岡大はFGトライを選択。
    キッカーである僕の出番だ。
    ハッシュレフト。
    確実に決めて当然の距離。
    キックしたボールは。左のポール上部を通過した。
    中心を通すことはできなかったが、決まったと思った。
    が、審判のシグナルはキック失敗。
    3秒ほどその瞬間の出来事を受け入れられなかった。
     
    岡山BADGERS 7−0 GOLDEN CEDARS 大阪市立
     
    10−0となるところを、点差を広げられなかった。
    サイドラインに帰りながら首をかしげた。
    キックを失敗と判定されたことも納得いかなかったが、それ以上になぜキックを思い描いているよりも左に飛ばしてしまったのか、原因を考えていた。
     
    飛距離を伸ばすことを考えて、キックのバランスが崩れていたのかもしれない。岡山に帰ってから、フォームを見なおそうと考えた。
    しかし試合中にこれ以上キックの失敗に気をとられるのは良くない。
    立て直せ。試合に集中。
     
    キックに神経質になり、気が散漫になりかけないために、イギリスでアメフトをしていた時にムードメイカーが発した言葉を思い出した。
    We are still winning!!
    僕の中で重い空気を一変させる言葉だった。
    悪いシチュエーションでも勝っていることに変わりはない。
    自分で呟き、沈んだ気持ちを切り替えた。
    得点差を広げられないまま前半終了。
    岡大 7−0 市大
    第3Qに7−6まで追い上げられた時は、キックを決めていればもっと楽に試合運びができたのにと思ったが、タッチダウン後の相手のキックを弾いたディフェンスを褒めることだけを考えた。
    We are still winning.
    岡大はタッチダウンを一本追加し、結果的には13-6で勝利した。
     

    第3節 岡大13−6 大阪市立大

     


    キックの修正・Youtube先生との特訓
     
    キックを失敗したときの帰りの電車はとても長い。新大阪から岡山までの3時間、外したシーンだけが頭の中をリピートする。
    気を抜いていたわけではないが、短い距離のFGだったから集中しきれていなかったのかもしれない。外したことのイライラよりも情けなさが勝った。40秒計が進み、焦っていたのかもしれない。だとしたら練習の時の想定が甘かったということになる。
     
    この距離のFGは決めて当然、サッカーのPKと同じようなものだ。決めても祝福はほどほど、外せば不信感につながる。
    キッカーは孤高であり、スコアリングに関わり勝敗を握るので極度のプレッシャーがかかる。一見単純に見えるがさまざまな要素があり、深く深く突き詰めなければならないポジションである。失敗してもあいつなら次も任せられると普段から信頼を得ていることも重要だ。
    今日のキック失敗で、次の試合からほぼ確実なところでないとFGを蹴らせてくれないのではないか。冒険させてくれないのではないか。
    不安に駆られた。
    何もしゃべりたくなかった。
    電車の窓ガラスに頭を打ち付けるようにして寝た。
    チームは勝った。だが僕にとっては負け試合だった。


     
    キックの研究を重ね、試行錯誤した。
    その結果、キックのばらつきを無くすためには助走が大事だとわかった。
    Youtubeを先生に見立て、NFLやアメリカの大学生、日本の大学生のキックを何種類も何回も見た。
    共通点はボールから後ろに3歩、横に2歩、軸足となる側の足を中心に体をホルダー方向に向ける。助走の一歩目は真下に踏み下ろす程度で小さく、残り2歩はリラックスして、インパクトの瞬間に力を入れる。上体は被せずに足を高く振り上げる。
     
    技術面ではこれらを意識して徹底的に反復する。
    しかし、技術だけでは試合の場面でキックする時は、極度の緊張状態になる。登場機会が少ない分、出場する時は必ず成功させなければならない。サッカーのPKのキッカーがそうであるように、周囲も成功するものだと思っているプレッシャーがある。だから練習でも1本目を大事にした。2,3回繰り返して決めるのは当たり前。試合では一発勝負、1本で決めることができるかに重きを置くことで、精神状態もできるだけ試合の状況に近づけた。 
    研究と練習を執拗に重ね、これなら大丈夫だという自分の中にキックの頼れる軸ができたので、プレッシャーにも負けにくくなった。

    僕は反復練習を楽しんでできる性格だ。反復することは退屈だと思われがちだが、僕はそうは思わない。一つ一つのポイントを確認しながら、一回一回何が上手くいったか、思ったようにいかなかったか自分に語りかけながら繰り返す。 
    ある程度習得できたと思ったら、テストをする。
    キックなら正面に立つポールにまっすぐなボールを当てることができるか、50ヤード先にあるバケツに高いボールを上から落として入れることができるか、ゲーム感覚で楽しむ。
    同じ動きをひたすら繰り返していても、意識する部分を変え、自分で撮ったビデオを確認するようにすると刺激が生まれ、退屈だと感じなくなる。そうして同じ型が自分の中にはめ込まれるまで徹底して繰り返した。


     
    第4節、vs大阪経済大学BOMBERS
     
    2勝1敗で迎えた大阪経済大戦。
    大阪経済大学はサイズが大きいチーム。とにかくフィジカルで勝とうという意志が見える。
     
    結果から先に言うと、この試合ではランニングバックを中心に、攻撃陣が爆発した。タッチダウン5本で35得点はバジャーズオフェンス4年ぶりの高得点だった。
    ここまで悩みに悩み抜いていたオフェンスがやっと、暗く湿気た洞窟から抜けだした。

    僕のキックも絶好調だった。 
    僕がスコアリングで登場したのはタッチダウン後のキック5回。
    市大戦後は反省を元に確実性を追い求めた。
    5回蹴って5回成功。
    乗り越えた。
     
    大経戦からはキックを外す気がしなくなった。
    大阪市立大学戦でキックは飛距離やダイナミックな見た目よりも正確性が大事だということに気づいてからの挽回だった。
    キックに迷いが無くなった。
     

    第4節 岡大 35−13 大経大
     
    いよいよ次は、和歌山大学との最終戦。



     
     

    最終節、vs和歌山大学 BLIND SHARKS
     〜入れ替え戦出場を掛けた最終戦〜
     
    岡大、和大ともに天理大学に敗戦し、勝ったほうが入れ替え戦出場校決定戦に進める。
    勝てばいい。負ければシーズン終了。単純明快。
     
    和歌山大学はディフェンスも強いが、攻撃力で勝負してきたチーム。パスとランのバランスが良く高校からアメフトをしているQBがオフェンスを指揮する。岡山大学と和歌山大学は同じ国立大学同士で似た雰囲気がある。
     
    試合開始から点の取り合い。岡大が先行し、和大が追いつく荒れた展開。
    岡大 21−21 和大
    大接戦だ。
     
    ディフェンスが強く、ロースコアの拮抗したゲームは経験してきたが、点取り合戦は経験したことがなかった。
    だが、不安はなかった。チームの雰囲気が最高だった。どんな状況でもサイドラインからチアアップや檄を飛ばす声が出ていたからだ。
    しかし最後になって均衡は敗れた。ここでBADGERS攻撃陣にミスが出てボールをファンブル。相手選手にリカバーされそのままエンドゾーンに持ち込まれた。
    岡大 21−28 和大
    ピンチだ。あとがない。
     
    残すは第4Qの10分。あと10分しかない。
    試合の流れからみて、無得点で攻撃権を渡せば相手に追加点を奪われる可能性もある。
    BADGERSが逆転するには、この攻撃シリーズでTDを取って6点、その後の2ポイントコンバージョンを成功させるしかない。そうすれば29−28と逆転できる。
    だが、RB陣の怪我でランプレーが思うように展開できない状況。
    いよいよBADGERSは窮地に追い込まれた。
     
    しかしこのピンチで、ロンドンで見たNFLの選手が蹴った、スタジアム5階席まで届くボールが、頭をよぎった。
    身体能力では及ばない。が、志の高さだけは、あのボールには負けていない。そう感じた。
    まわりの仲間たちの姿を見た。
    サイドラインの全員が試合にのめり込んでいた。
    イギリスから帰国後、スタンドからBADGERSの試合を観戦した時に見た、サイドラインに立つ選手たちの自信なさげで静かな背中はそこにはなかった。
     
    (つづく)



    アメフト野郎(1)
    アメフト野郎(2)
     

     
    | uniqueな塾生の話 | 13:16 | - | - | ↑PAGE TOP