猫ギターの教育論

尾道市向島の塾「US塾」塾長のブログ 早稲田大学・開成高校出身 本音が飛び交う、少し「上から目線」の教育論
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開成高校「日本一の運動会」
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    開成高校・中学の運動会は、どういうわけだか「日本一の運動会」と呼ばれている。
    運動会は5月の第2日曜日に行われ、週刊誌のグラビアなどで毎年のように掲載される。

    開成の人間はたいがい「東大合格者数日本一」と言われても、「そんなことで俺らを評価するな!」と、あまり喜びを表に出さない屈折した心理を持つが、「開成の運動会は凄いですね」とほめられたら相好を崩す。
    開成の運動会は
    「硬派で熱い青春ドラマ」といった感じだ。男子校だから「質実剛健」、筋金入りの硬派だ。

    私は運動会が大好きだった。

    開成高校は1学年8クラスあり、それぞれ「赤・青・黄・緑・白・黒・橙・紫」の8つの組に分かれて戦う。
    開成は六年一貫だから、中学生と高校生が同じ組になる。中1から高3までの6学年が、一つの組で一致団結するのだ。

    中1が開成に入学して最初に受けるのは、そんな旧制高校のバンカラな遺風を色濃く残す運動会の洗礼だ。
    勉強だけの純粋培養の小学生が、いきなりワイルドな男の世界に巻き込まれる。

    誰もが狂ったように掛け声を上げる。シャイな子も羞恥心を吹き飛ばして運動会に熱狂する。
    赤組は「あか! あか!」、黒組なら「くろ! くろ!」と格好良く掛け声を上げる。
    ところが橙組の「だいだい! だいだい!」、紫の「むらさき! むらさき!」という掛け声は、初めて聞いた人にはちょっと間抜けに聞こえるかもしれない。
    でも、誰もが真剣にやっているので、そんなからかい言葉は迫力に圧倒され自然に消え去ってしまう。

    昼休みには、高3の黒い学ラン姿の応援団に囲まれて、中1はエール(応援歌)の練習をする。
    デカイ18歳の高3と、ちっこい13歳の中1が、協力して物事を成し遂げるという状況は、世の中にそんなにあるわけではない。

    「声が小さい!」「オウ!」
    オッサンくさい高3が「声が小さい!」と叫ぶ野太い声と、声変わりしていないカワイイ中1の「オウ!」という高い掛け声が交錯して、奇妙な上下関係が生まれる。

    各組のエール(応援歌)は高3の担当が作詞作曲し、アーチ(看板)は3月頃からこれも高3が協力して描く。
    エールはアニメの主題歌のように勇ましく、アーチは高校生が作ったものとは思えない素晴らしいものだ。
    運動会に見学に来た人は、まず8つ並んだ巨大な壁画のようなアーチに圧倒される。

    先生は、全くといっていいくらい、運動会には手を出さない。運動会の運営は、ほぼ生徒の自主性に任されている。

    競技は中1が馬上鉢巻取り、中2が綱取り、中3が俵取り、高1が騎馬戦、そして高2と高3が棒倒し。仮装大会とかいった色物はない。主役は男くさい競技ばかりだ。

    競技に負けたら応援席に走り、泣いて土下座する。中1も泥だらけになった、大きなプロテクターで羊のようにモコモコになった白い体操着姿を、地面の上で丸めて泣き崩れる。

    学ラン姿の応援団の先輩は「お前ら泣くなよ! よくやったよ!」「土下座なんかするなよ! 立てよ!」と、彼らも興奮して泣きながら中1の体を起こしにかかる。
    笑える光景にしか見えないだろうが、少なくとも私は、純粋に悔しくて本当に泣いていた。一生懸命だった。

    逆に競技に勝ったら、その瞬間に笛が「ピーッ」と広い校庭に響き渡り、アーチで応援している生徒は飛び上がり、グラウンドが揺れる。
    興奮のあまり旗手が旗を持ってグラウンドを走って一周し、組のメンバー全員が凱旋し後に続いた。織田信長を先頭にした、桶狭間の戦いの織田家臣団みたいに。

    カッコよかった。何もかもが。
    誰もが闘志むき出しだった。
    上半身裸で戦う棒倒し。担架で負傷者失神者がどんどん運ばれていった。

    ところで、個人主義者の権化のイメージがある私だが、子供時代は素直だったので、ロカビリー先生と違い(笑)犬のように先輩に喰らいつき、先輩からものすごく可愛がられるタイプだった。運動神経が鈍いながらも、気力でアピールして、先輩に「お前が一番頑張ってる」と、よくほめられた。

    下宿して1人暮らしをしている事情を高3の先輩に話すと、パンやジュースをおごってくれた。今思うと高校生の小遣いは少ないのに、ほんとうにありがたかった。根が体育会系の私は、ピリッとした上下関係の運動会が大好きだった。

    ただ体育会系といえども、陰湿な雰囲気は全くなかった。
    練習中は、旧日本陸軍もかくやと思わせる、体罰はないが軍隊式の訓練が続いた。しかし練習が終わると、先輩も後輩も急にフレンドリーになった。芸術的なメリハリがある上下関係だった。
    先輩後輩どうしが、お互い涙目になるような真剣な話をした後で、下らない馬鹿話で盛り上がったりした。

    先輩方は賢い人が多かった。だから自分に自信を持っている。自信を持っているからカラ威張りしない。虚勢を張らない。
    また後輩も場の空気が読めるし、先輩の「威」を察知する感性があり、先輩に対してどう振る舞えばいいか理解している。

    先輩がやさしくても甘えたりしない、フレンドリーでも馴れ馴れしくならない。そして何よりも私は先輩方を慕っていた。慕っていたから敬意が無意識にあふれた。
    上下関係の絶妙な距離感を、私は開成の運動会で学んだ。

    中3の時、高3のサブチーフのI先輩に呼ばれた。
    「悪いけどお前、叱られ役やってくれないか。練習が中だるみで、最近たるんでるんだ。お前が一番頑張ってるから、お前を叱るとピリッとする。運動会本番まで我慢してくれ」

    その後私はみんなの前で、何度も厳しく叱られた。I先輩は演技ではなく本気で怒っているようで、私は何度か悔しくて涙目になった。
    運動会が終わった後、「よく耐えてくれた、ありがとな」と、I先輩は私にコーヒー牛乳をおごってくれた。コーヒー牛乳だけかよと、多少不満もなかったわけではないが(笑)、信頼してくれたいい先輩に出会えて本当に良かったと思う。

    開成の運動会は、勉強に対する内面的なパワーを、外面的な若い肉体のパワーに見事に転換させる。
    勉強する若者のパワーは静的なものだが、もし目に見えるようになったら、これほどまでに途轍もない強大なものになるのか、驚嘆させてくれる絶好の機会かもしれない。

    運動会に熱狂するのは、「日本一の高校」で「日本一の運動会」を戦っている誇らしさ、そんな鼻持ちならないエリート意識もあったかもしれない。
    開成のヤツなんて、青っ白い勉強だけの人間だという偏見を打破したい思いもあったかもしれない。
    ただ開成の運動会が、青春完全燃焼の舞台だったことは明らかだ。勉強も仕事も運動も、何をやらせても熱い集団の中で過ごせたことは、今考えたらとても幸せなことだ。

    5月の運動会のあと、高3は運動会の外向的エネルギーを、再び勉強の内向的エネルギーに変え、受験勉強を戦い抜く。

    とにかく、こんな熱い運動会を見せつけられたら、受験生の親は「絶対にうちの子を開成に入れたい」と思うし、子は「運動会のために開成に行く」と倒錯した大志を胸に抱き、開成に強い憧れを持っても無理はない。
    意図してるわけではないが、皮肉にも運動会は開成高校の最高の宣伝になっている。

    私の開成高校に対する「愛校心」の90%は、運動会の思い出と共にある。









     
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