猫ギターの教育論

尾道市向島の塾「US塾」塾長のブログ 早稲田大学・開成高校出身 本音が飛び交う、少し「上から目線」の教育論
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罵倒した生徒に逆ギレされた教師
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    村上春樹ファンの私は、村上春樹の単行本が出たら、直ちに買うのはもちろんだが、一度読んでいるはずなのに、文庫化されても買ってしまう。
    同じ内容の文庫本に、特に何か新しいことが書き加えられているわけでもないのだが、村上春樹の文章を再読すれば、1回目に読んだ時より心に沁みるような気がする。
    単行本を買って初めて接した文章は、一番風呂のようなピリピリした馴染みの悪さをどことなく感じるが、文庫本で以前読んだことがある文章に再び接すれば、二番風呂みたいにしっかり優しく、頭に内容がくっきりと食い込んでくる。

    村上春樹は中毒になる。もう逃れられない。いま村上春樹は大長編を書いているそうだが、早く読みたい。

    ところで、先日もブルース・スプリングスティーンで紹介した、最近文庫本で発売された音楽論集「意味がなければスイングはない」には、20世紀を代表するピアニスト、ルービンシュタインが、16歳まで師事していたハインリッヒ・バルト教授と訣別したやり取りが書かれていて、教育に携わり、生徒と師弟関係を結んでいる私としては、ちょっとホラーな内容だった。

    ルービンシュタインは幼い頃からピアノの神童と言われ、自由奔放な「遊び人」で、この態度は彼が名声を全うし、95歳で亡くなるまで一貫していた。

    ところが、ルービンシュタインがちょうど現在の中学生ぐらい、遊びたい盛りの年齢で師事したバルト教授は、ルービンシュタインに対して抑圧的で、ショパンやドビュッシーのような「非ドイツ的音楽」の価値をいっさい認めず、「二流の凡庸な」ドイツ音楽の練習曲を強圧的に与え、朝から晩まで禁欲的な練習を強制した。

    ある日バルト先生は、ルービンシュタインをこう罵った。
    「おまえみたいな練習もろくにしないで、ちゃらちゃらした人生を送るやつは、最後には「どぶ」の中で惨めに死んでいくんだ。」

    これに16歳のルービンシュタインは逆ギレし、堰を切ったように恩師を罵倒する。
    「先生、残念ながらあなたには僕という人間がわかっていない。僕の本当の性格も全然わかっていない。あなたは自分とまったく同じようなつまらない人生を、僕が送ることを求めておいでだ。しかしそれはまったく承伏しかねることです。僕は至福に満ちた1週間を送ったら、あとは死んでもかまわないと考える人間なんです。あなたと同じように人生をたらたらと長く送るくらいなら、まだしも「どぶ」で死んだ方がましです。あなたは朝から晩までせっせと仕事をし、楽しい思いをするでもなく、おおむね才能のない生徒にピアノを教え、どこかに旅行に出かけるでもなく、いつも苦虫をかみつぶしたような顔で汲々と暮らしている。音楽的に見たって、がちがちの偏見に満ちている。好奇心もなければ、新しいものに興味を持つこともない。これまでお世話になったことは深く感謝しますが、もうこんな生活には我慢できません。これからは一人で好きに生きていきます。」

    こんな激越な言葉を残して、16歳でルービンシュタインはバルト先生のもとを離れた。

    ルービンシュタインみたいな、理詰めで相手の本質を抉るような啖呵をきる度胸がある若者には、将来の大物になる片鱗をヒシヒシと感じる。若き日のルービンシュタインは、理不尽なこと、自分合わないことに真正面から立ち向かえる男だった。

    しかし逆に、ルービンシュタインに激しい言葉を浴びせられたバルト教授のやりきれない気持ちも、私には理解できる。私のような子供を「強制」し「矯正」するタイプの教師にとって、バルト教授の悲劇は、いつ自分に降りかかってこないとも限らない。良かれと思ったことが、残酷に否定されてしまった。

    教師は生徒に向かって、罵声を一方的に放つ。生徒から逆ギレされ言い返された経験がある人は、あまりいないだろう。
    子供に厳しく接する教師は、子供に否定される覚悟はある程度できているものだが、いざ実際に罵倒されると、胸がグシャグシャに掻き乱れる。
    突発的な愛弟子の逆ギレにバルト教授が憔悴して、怒りを通り越して悲嘆にくれ、蒼白になった顔が目に浮かぶ。

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