2003.08.25 Monday
「3年B組金八先生」
金八先生の最新シリーズをビデオで見た。まだ無名だった頃の上戸彩が、性同一性障害の少女を演じるやつ。
感想は? う〜ん、ひどい。
いくつか問題点を列記してみよう。
●まず第1に武田鉄矢が疲れている。若さが消えてパワフルじゃないし、かといって年齢相応の枯れた魅力を醸し出してはいない。
こんなんじゃあ
「生徒に絶大な人気がある坂本金八」
ではなく、
「銭のために渋々演技してる武田鉄矢」
にしか見えない。まるで、晩年の寅さんみたい。
そんな、くたびれた武田鉄矢に対して、中3生の男の子が3人が
「先生〜」「金八先生〜」
と泣きながら抱きついているシーンがあった。1人は首に、1人は胸に、もう1人は腰に。
中学生の男子が、オッサン中年教師に抱きつくなんてあり得ない。抱きつくことに現実味を与えるには、強烈にドラマティックな展開を脚本の段階で作り上げるか、或いは「ああ、この人なら抱きつきたいな」と万人が納得するフェロモンを武田鉄矢が発散しているかのどちらかでしかない。
この場合どちらの条件も満たしていないので、脚本家や演出家の意に反して、奇々怪々でグロテスクなシーンになってしまうのだ。
●第2に、生徒たちの演技がおかしい。特に授業風景。
実際の授業では、先生に当てられたら、生徒は一瞬答えるのに躊躇するはずだ。
普通の中学の授業風景だったら、
先生「徒然草書いたの誰かな、村上っ」
生徒、突然当てられて緊張し、咳を2回して立ち上がる。
椅子が床とこすれあう音が教室に響く。そしてぼそりと・・
生徒「吉田兼好」
といった感じじゃないかな。
ところが桜中学3年B組では、金八先生に指名されると、生徒は待っていましたとばかり応答する。
金八「徒然草書いたの誰だあ〜みつよし〜答えてみろ」
生徒、0.5秒で待ってましたとばかり立ち上がり、元気に答える
生徒「吉田兼好(ケンコウ)」
さらに後ろを振り向き、友達に向かって
生徒「オレは健康(ケンコウ)っ」
金八「こらあ〜みつよし〜 よけいな事はいわな〜い」
これはどう見たって自然な中学生の演技ではなく、劇団所属の目立ちたがりの子役である。教師に突然指名された生徒が、こんなにポンポン即興で答えられるわけがないのだ。
こんな授業は、あまりにもウソ臭いと毎日現場にいる私は思う。TBSのスタッフは教育現場での地道な取材をやっているのだろうか。
ドラマを豊かに表現するには、客の目を意識しながら、少々オーバーにリアルな嘘をつくことも、時には大切なのはわかる。しかし間近で毎日子供と接している私のような職業の者には、3年B組の授業風景は脚色の度が過ぎているように映る。
ちなみに、私が学園物で感心したのは「さよなら、小津先生」というドラマ。田村正和が銀行をクビになって、高校教師をやるという設定である。
無関心と無気力が支配する、工業高校の授業の雰囲気の演出は、繊細で素晴らしかった。 さすが君塚良一。
●第3に、テーマが重過ぎる。
性同一性障害や白血病という重いテーマで視聴者の気を引きたいのはわかるが、細部がきちんと描かれていないため、テーマが重い分絵空事にしか見えない。
現実離れ感を狙って、興味本位で性同一性障害や白血病を持ち出すのは、これらの病気で悩む患者さんに失礼だ。
個人の絶対的な不幸は、容易に他人を介在させない。それを友情とか師弟愛でくるんでしまうから、可笑しなことになる。
どうせ重病を扱うなら、戦争直後イタリアで流行った「自転車泥棒」みたいな極度にリアリズムを追及した映画を真似て、徹底して残酷な現実をあぶり出すか、逆に開き直って大映ドラマのように超絵空事として描くか、どちらか両極端な表現方法しか説得力を持たないだろう。
●第4にキャスティング。
金八先生の同僚の先生に魅力がない。
昔は倍賞美津子とか名取裕子とか財津一郎とか、名も実も兼ね備えた素晴らしい俳優が職員室に揃っていた。赤木春恵の校長も貫禄があった。
ところがいまや、桜中学の職員室は無名の俳優ばかりで、しかも演技力に非常に難がある。オーバーアクションの度が過ぎる。予算不足なのだろうがどうせ無名の俳優を雇うならキャスティングはもっと慎重にすべきだし、また演出でもっと俳優の拙さは隠せるはずだ。
その点、キムタク主演の「HERO」の脇役陣は、「あるよ」の居酒屋のマスターに代表されるように、通行人に至るまでリアリティーがあった。
私は中学生・高校生の頃、実は「金八先生」のドラマが大好きだった。第1シリーズと第2シリーズは素晴らしかった。
でも最新作はこの体たらくである。残念だった。
私は金八先生を見て先生になろうと思った人間ではない。金八先生からは、職業を選択する際も、教育現場で働く今でも、ほとんど影響は受けていないと思う。ただ、純粋にドラマとして非常に面白かった。
金八先生から影響を受けたといえば、ただ1点のみ。
2年前私の塾に、学ラン姿で塾に来る、背が高くて少々突っ張っているように見える男子中学3年生コンビがいたのだが、彼らをいつもくっつけて一番後ろに座らせたことぐらいである。
2人背の高い学生服が後ろに並ぶと、教室のすわりが妙にいいのだ。
一度彼らのうちの1人に、いつもなぜコンビで一番後ろの席なのか、その理由を尋ねられたことがある。
男子コンビ「何で俺ら、いつも2人一緒で後ろなん」
私「加藤勝と沖田浩之だからだ」
男子コンビ「???」
さて、金八先生の最新作に大いに失望した私は、口直しに金八先生の第1シリーズ・第2シリーズを見ることにした。
第1シリーズはたのきんトリオや三原順子が出演し、鶴見辰吾が杉田かおるに15で子供を産ませるやつ、第2シリーズはあの加藤勝こと直江喜一が出演し、最終回で中島みゆきの「世情」がかかるやつである。
第1シリーズも第2シリーズも15年ぶりぐらいに見る。私が小学生の時のリアルタイムと、あと大学生のとき再放送で見たかな。今回が3回目。
過去2回見て、どちらもすごく感動した。
ただ、あまりにも最新シリーズがひどかったため、私の今の少々肥えた目で見たら、第1シリーズも第2シリーズもどうせつまらないだろうと、相当覚悟をしていた。私は金八先生に思い入れがあったので、私の大人の目が、思い出を潰してしまうことを恐れた。
向田邦子の「父の詫び状」の一節。
「思い出はあまりムキになって確かめない方がいい。何十年もかかって、懐かしさと期待で大きくふくらませた風船を、自分の手でパチンと割ってしまうのは勿体ないのではないか。」
見た。結論。いやあ凄かった。
教師になった今、小学生や大学生の時にはわからなかったことが理解できる。昔見たより遥かに心が燃えた。
もう武田鉄矢が凄いのなんの。あれは中学講師を超えている。演技を超えた一世一代のパフォーマンスである。
まるでティーンエイジャーを洗脳する教祖である。教育家でなく宗教家である。あんな人に洗脳されたらさぞ快感だろう。
若き日の武田鉄矢の凄みがわかった。
まだキャリア的にも中途半端な位置にある俳優武田鉄矢の、這い上がろうとする鮮烈な野心と、金八という男に熱い魂を注ぎ込んだ小山内美江子のストーリー性に富んだ脚本が、幸福な相乗作用をおこして坂本金八という稀有なキャラクターを生み出した。
旬の俳優と情熱あふれる脚本の邂逅。
もう、金八先生の説教するときの目がイッテる。あの目で、あの声で、あの髪型で説教されたら、誰も反論できない。誰も言い返せない。あと1mmで笑いに突入するスレスレの狂気が、見るものをを酔わせる。
「子供は腐ったみかんじゃないんです!」武田鉄矢がわめく。
散々パロディーにされたこのシーンで不覚にも私は涙が出た。もうたまらん。
俺が中学生だったら、金八っさんに抱きつくぜ。
若い金八先生の、狂的な目だけでも見たいという方は、ビデオ屋へ行って第1シリーズのパッケージをご覧下さい。
とにかくすごいですから。
ところで後日、Greeeenがシングルのジャケットに、使っていた。
この目です。
感想は? う〜ん、ひどい。
いくつか問題点を列記してみよう。
●まず第1に武田鉄矢が疲れている。若さが消えてパワフルじゃないし、かといって年齢相応の枯れた魅力を醸し出してはいない。
こんなんじゃあ
「生徒に絶大な人気がある坂本金八」
ではなく、
「銭のために渋々演技してる武田鉄矢」
にしか見えない。まるで、晩年の寅さんみたい。
そんな、くたびれた武田鉄矢に対して、中3生の男の子が3人が
「先生〜」「金八先生〜」
と泣きながら抱きついているシーンがあった。1人は首に、1人は胸に、もう1人は腰に。
中学生の男子が、オッサン中年教師に抱きつくなんてあり得ない。抱きつくことに現実味を与えるには、強烈にドラマティックな展開を脚本の段階で作り上げるか、或いは「ああ、この人なら抱きつきたいな」と万人が納得するフェロモンを武田鉄矢が発散しているかのどちらかでしかない。
この場合どちらの条件も満たしていないので、脚本家や演出家の意に反して、奇々怪々でグロテスクなシーンになってしまうのだ。
●第2に、生徒たちの演技がおかしい。特に授業風景。
実際の授業では、先生に当てられたら、生徒は一瞬答えるのに躊躇するはずだ。
普通の中学の授業風景だったら、
先生「徒然草書いたの誰かな、村上っ」
生徒、突然当てられて緊張し、咳を2回して立ち上がる。
椅子が床とこすれあう音が教室に響く。そしてぼそりと・・
生徒「吉田兼好」
といった感じじゃないかな。
ところが桜中学3年B組では、金八先生に指名されると、生徒は待っていましたとばかり応答する。
金八「徒然草書いたの誰だあ〜みつよし〜答えてみろ」
生徒、0.5秒で待ってましたとばかり立ち上がり、元気に答える
生徒「吉田兼好(ケンコウ)」
さらに後ろを振り向き、友達に向かって
生徒「オレは健康(ケンコウ)っ」
金八「こらあ〜みつよし〜 よけいな事はいわな〜い」
これはどう見たって自然な中学生の演技ではなく、劇団所属の目立ちたがりの子役である。教師に突然指名された生徒が、こんなにポンポン即興で答えられるわけがないのだ。
こんな授業は、あまりにもウソ臭いと毎日現場にいる私は思う。TBSのスタッフは教育現場での地道な取材をやっているのだろうか。
ドラマを豊かに表現するには、客の目を意識しながら、少々オーバーにリアルな嘘をつくことも、時には大切なのはわかる。しかし間近で毎日子供と接している私のような職業の者には、3年B組の授業風景は脚色の度が過ぎているように映る。
ちなみに、私が学園物で感心したのは「さよなら、小津先生」というドラマ。田村正和が銀行をクビになって、高校教師をやるという設定である。
無関心と無気力が支配する、工業高校の授業の雰囲気の演出は、繊細で素晴らしかった。 さすが君塚良一。
●第3に、テーマが重過ぎる。
性同一性障害や白血病という重いテーマで視聴者の気を引きたいのはわかるが、細部がきちんと描かれていないため、テーマが重い分絵空事にしか見えない。
現実離れ感を狙って、興味本位で性同一性障害や白血病を持ち出すのは、これらの病気で悩む患者さんに失礼だ。
個人の絶対的な不幸は、容易に他人を介在させない。それを友情とか師弟愛でくるんでしまうから、可笑しなことになる。
どうせ重病を扱うなら、戦争直後イタリアで流行った「自転車泥棒」みたいな極度にリアリズムを追及した映画を真似て、徹底して残酷な現実をあぶり出すか、逆に開き直って大映ドラマのように超絵空事として描くか、どちらか両極端な表現方法しか説得力を持たないだろう。
●第4にキャスティング。
金八先生の同僚の先生に魅力がない。
昔は倍賞美津子とか名取裕子とか財津一郎とか、名も実も兼ね備えた素晴らしい俳優が職員室に揃っていた。赤木春恵の校長も貫禄があった。
ところがいまや、桜中学の職員室は無名の俳優ばかりで、しかも演技力に非常に難がある。オーバーアクションの度が過ぎる。予算不足なのだろうがどうせ無名の俳優を雇うならキャスティングはもっと慎重にすべきだし、また演出でもっと俳優の拙さは隠せるはずだ。
その点、キムタク主演の「HERO」の脇役陣は、「あるよ」の居酒屋のマスターに代表されるように、通行人に至るまでリアリティーがあった。
私は中学生・高校生の頃、実は「金八先生」のドラマが大好きだった。第1シリーズと第2シリーズは素晴らしかった。
でも最新作はこの体たらくである。残念だった。
私は金八先生を見て先生になろうと思った人間ではない。金八先生からは、職業を選択する際も、教育現場で働く今でも、ほとんど影響は受けていないと思う。ただ、純粋にドラマとして非常に面白かった。
金八先生から影響を受けたといえば、ただ1点のみ。
2年前私の塾に、学ラン姿で塾に来る、背が高くて少々突っ張っているように見える男子中学3年生コンビがいたのだが、彼らをいつもくっつけて一番後ろに座らせたことぐらいである。
2人背の高い学生服が後ろに並ぶと、教室のすわりが妙にいいのだ。
一度彼らのうちの1人に、いつもなぜコンビで一番後ろの席なのか、その理由を尋ねられたことがある。
男子コンビ「何で俺ら、いつも2人一緒で後ろなん」
私「加藤勝と沖田浩之だからだ」
男子コンビ「???」
さて、金八先生の最新作に大いに失望した私は、口直しに金八先生の第1シリーズ・第2シリーズを見ることにした。
第1シリーズはたのきんトリオや三原順子が出演し、鶴見辰吾が杉田かおるに15で子供を産ませるやつ、第2シリーズはあの加藤勝こと直江喜一が出演し、最終回で中島みゆきの「世情」がかかるやつである。
第1シリーズも第2シリーズも15年ぶりぐらいに見る。私が小学生の時のリアルタイムと、あと大学生のとき再放送で見たかな。今回が3回目。
過去2回見て、どちらもすごく感動した。
ただ、あまりにも最新シリーズがひどかったため、私の今の少々肥えた目で見たら、第1シリーズも第2シリーズもどうせつまらないだろうと、相当覚悟をしていた。私は金八先生に思い入れがあったので、私の大人の目が、思い出を潰してしまうことを恐れた。
向田邦子の「父の詫び状」の一節。
「思い出はあまりムキになって確かめない方がいい。何十年もかかって、懐かしさと期待で大きくふくらませた風船を、自分の手でパチンと割ってしまうのは勿体ないのではないか。」
見た。結論。いやあ凄かった。
教師になった今、小学生や大学生の時にはわからなかったことが理解できる。昔見たより遥かに心が燃えた。
もう武田鉄矢が凄いのなんの。あれは中学講師を超えている。演技を超えた一世一代のパフォーマンスである。
まるでティーンエイジャーを洗脳する教祖である。教育家でなく宗教家である。あんな人に洗脳されたらさぞ快感だろう。
若き日の武田鉄矢の凄みがわかった。
まだキャリア的にも中途半端な位置にある俳優武田鉄矢の、這い上がろうとする鮮烈な野心と、金八という男に熱い魂を注ぎ込んだ小山内美江子のストーリー性に富んだ脚本が、幸福な相乗作用をおこして坂本金八という稀有なキャラクターを生み出した。
旬の俳優と情熱あふれる脚本の邂逅。
もう、金八先生の説教するときの目がイッテる。あの目で、あの声で、あの髪型で説教されたら、誰も反論できない。誰も言い返せない。あと1mmで笑いに突入するスレスレの狂気が、見るものをを酔わせる。
「子供は腐ったみかんじゃないんです!」武田鉄矢がわめく。
散々パロディーにされたこのシーンで不覚にも私は涙が出た。もうたまらん。
俺が中学生だったら、金八っさんに抱きつくぜ。
若い金八先生の、狂的な目だけでも見たいという方は、ビデオ屋へ行って第1シリーズのパッケージをご覧下さい。
とにかくすごいですから。
ところで後日、Greeeenがシングルのジャケットに、使っていた。
この目です。