2008.11.29 Saturday
茂木健一郎の聞き上手と髪型
茂木健一郎が73歳になり、♪73の夜〜盗んだバイクで走り出す〜なんて歌ったら、ただの暴走老人である。
ところでNHK「プロフェッショナル〜プロの流儀」での茂木健一郎の聞き上手ぶりには驚く。ゲストに語るだけ語らせて、自分は表面には出ない。
茂木健一郎は脳科学者で、著書はベストセラーを連発し、大学入試の国語でも頻繁に引用されている。当然あれだけの文章を書く人だから、茂木健一郎は自己主張の強い人だ。対談本でも自分の研究や思想について饒舌に語っている。
しかし「プロフェッショナル」では、そんな素振りさえ見せない。自分のことはあまり語らない。間違っても「クオリア!」などと叫んだりはしない。
視聴者は茂木健一郎の存在を意識しないで、ゲストの話だけが浮き立つようになっている。
私は茂木健一郎の聞き上手ぶりを研究するために、一度「プロフェッショナル」を茂木健一郎にだけ注目して、茂木健一郎のリアクションだけを意識しながら番組を見たことがあったが、10分もたたないうちに挫折し、ゲストに意識が移り、茂木健一郎の存在を忘れてしまった。
「プロフェッショナル」での茂木健一郎は、完全に保護色に染まっている。
本とテレビの茂木健一郎は、能動態と受動態ぐらい違う。
ゲストはみな、柔和な笑顔の茂木健一郎の前で口が滑らかになっている。あのイチローだって気持ちよく茂木健一郎の前でしゃべっていた。。
茂木健一郎は小学生の時から勉強ができたという。そういえばあの聞き方は、優秀で真面目な生徒が授業を受ける時の聞き方に他ならない。
茂木健一郎の本だけを読んでいる人は、テレビでの自分を殺した姿は意外だろうし、テレビだけ見ている人は、茂木があんな論理的でユニークな自己主張に満ちた文章を書く人だと想像できないだろう。優しそうなモジャモジャ頭のオジサンにしか見えないかもしれない。
そういえば村上龍も聞き上手だった。20年ぐらい前「Ryu's Bar 気ままにいい夜」という対談番組があったが、村上龍は寡黙で、ゲストの話を受け止める間に沈黙がある。時には沈黙が10数秒にわたったが、村上龍は沈黙のうちに言葉を探るタイプで、反射的に言葉を返さない人だった。
いや、あれは聞き上手とは呼ばないのかもしれない。あの眉間にシワをよせた村上龍の沈黙は相手と話が合わなかったからなのかもしれないし、何しろ不自然な沈黙のせいで、村上龍の存在が雪原にたたずむカラスのように思いっきり目立った。茂木健一郎とは正反対である。
とにかく「Ryu's Bar」は不思議な対談番組だった。
ところで最近、私は髪を伸ばしたくなった。ハゲでデブの私が髪を伸ばしたら、体型はデーブ大久保、髪型は渡辺久信というとんでもない容姿になるので実行に移せないのだが、もし髪があったら茂木健一郎みたいなチリチリパーマの髪型にしたい。歳を取って白髪が増えたら立花隆になるし。知的な髪型ではある。