ところで「龍馬伝」。龍馬役は最初から福山雅治だったのか、それとも巷で言われているように木村拓哉が龍馬をやる予定だったのか、そんなことを考えながらドラマを見て、シナリオを追っている。
「龍馬伝」シナリオの福田靖氏は、木村拓哉と福山雅治のどちらを想定してシナリオを書いたのか?
「龍馬伝」の龍馬は、押しの強い龍馬ではなく、どちらかと言えば大人しい、受け身の龍馬である。受け身の演技が際立つには存在感が必要。福山雅治と木村拓哉、存在感が強いのは当然キムタクの方である。
「龍馬伝」は、木村拓哉の存在感にすがったシナリオのような気がする。キムタクは黙っていても「アク」のようなものが放出される。
最近の木村拓哉のドラマ、特にレーサー役の「エンジン」、総理大臣の「CHANGE」あたりは木村拓哉が「最強の人」になっていて、説教くさく鼻につくところがある。
「ロングバケーション」の頃は、木村拓哉がまだ「キムタク」ではなく、等身大の若者役で感情移入できた。最近の木村拓哉ドラマは、昔の「RUN」「とんぼ」など長渕剛ドラマに似ている。
そんな状況の中、「龍馬伝」で「日本最高の俳優」木村拓哉が、「日本歴史上最高の人気者」坂本龍馬を演じるとどうなるか? 完璧な人間すぎて視聴者は敬遠する。キムタク龍馬がスーパーマンになることを、賢明なドラマの作り手なら忌避するはずである。そこでシナリオにある工夫を加えた。
劇中に「キムタク+龍馬」に嫉妬し暴言を吐く、岩崎弥太郎役を設定したのだ。
「龍馬伝」で、香川照之演じる岩崎弥太郎は、必要以上に龍馬を嫌っていないだろうか?龍馬に嫉妬していないだろうか?
たしかに龍馬と弥太郎は広末涼子を間に置いた「恋敵」のような複雑な仲だが、福山雅治は善人で、あれほどまで弥太郎から敵意を向けられるリアリティがない。
いまの「龍馬伝」のシナリオで、木村拓哉が龍馬役なら、岩崎弥太郎の嫉妬も納得がいく。キムタク龍馬なら、あれくらい憎まれても現実味がある。木村拓哉は視聴者の好き嫌いが激しい。
逆に福山雅治は万人受けする俳優だ。福山雅治を主演・龍馬に設定して、シナリオ段階であんなに福山さんを嫌う敵役を登場させるのは不自然だ。
「龍馬伝」は、最近のキムタクドラマのスーパーマンぶりを、劇中で香川照之に批判させることで中和させる意図があったのだと想像できる。
「キムタク龍馬、なんぼのもんじゃい」という視聴者の代弁を、岩崎弥太郎にさせたのかも。そうでないと香川照之の福山雅治に対するあの怒りの心情が、いまいち納得できない。
というわけで、僕は「龍馬伝」は、もともと木村拓哉主演で企画されたドラマだと邪推する。
少なくとも龍馬役は武田鉄矢ではない。武田鉄矢が坂本龍馬なら、岩崎弥太郎役は鈴木正幸(金八先生のおまわりさん)しかいない。