猫ギターの教育論

尾道市向島の塾「US塾」塾長のブログ 早稲田大学・開成高校出身 本音が飛び交う、少し「上から目線」の教育論
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中学受験前に小学校を休むこと
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    1月になると、中学受験が盛んな地域の、小学校6年生の教室では欠席が目立つようになる。
    関東の中学入試は2月初旬、関西は1月下旬に実施され、受験する子供が正月明けぐらいから準備のため小学校を休むからである。

    ただ、小学校を休むことで、まわりから手痛い中傷を受けることもある。
    たとえば、松倉さんという小6の女の子がいて、私立女子中学を受験するとしよう。

    松倉さんは偏差値が志望校のボーダーラインより少し下で、合否は追い込みにかかっていると、塾の先生から面談で言われた。
    松倉さんはお母さんから「学校へ行っても無駄でしょ。塾の自習室に行きなさい。朝から開いているらしいわ。たぶん塾の先生がいらっしゃるだろうから、過去問やって算数を質問しなさい」と言われたので、1月の何日かは学校を休んで塾に行った。

    ところが努力の甲斐なく、学校を欠席した松倉さんは不合格。
    逆に小学校のクラスメイトで、試験日以外は一日も小学校は休まなかった田丸さんが合格した。
    学校を休んだ松倉さんが不合格で、休まなかった田丸さんが合格という皮肉な結果になった。

    休んで不合格になった松倉さんは、寡黙であまり笑わない生真面目な女の子だった。小説や少女マンガを読むのが好きで精神年齢が高く、友達ともあまり話をしない。それが同級生には、お高くとまっているように見えた。小学校の授業中は塾のテキストをやっていて、先生には黙認されていた。
    逆に田丸さんは笑顔がいい子で、秀才という感じではなく、活発で友達づきあいが上手な子だった。小6らしい子供っぽさと愛嬌をふんだんに持ち合わせていた。お母さんは受験のことに関して田丸さんに任せ、カリカリした教育ママとは正反対の性格だった。

    松倉さんのお母さんは、子供が私立受験することを自身のブログに書いていた。お母さんはふつうに書いているつもりなのだが、ブログの読者からは、松倉さんのお母さんが娘自慢をしているように映ったらしかった。中学受験の親独特の偏狭性とエリート意識が、読者の気に障ったらしいのだ。
    松倉さんのお母さんはブログに「中学受験前に小学校へ行くのは、時間の無駄なような気がします。小学校の勉強は、ハッキリ言っていりません」と公然と書いていた。

    松倉さんが不合格だとわかったあと、松倉さん母子に対するブログでのパッシングはひどかった。
    ブログのコメント欄には「小学校の勉強はいらないと言っていたくせに、中学からお前の娘はいらないと捨てられた。プゲラララ〜」「小学校ズル休みして、中学校にズルッと落ちたバカ娘」といった、心ない中傷が書かれていた。
    松倉さんのお母さんのブログは合格発表の日以来、更新が途絶えたままである。ブログのトップはスポンサーサイトで占められ、コメント欄には数百ものコメントが残され、ブログはアラシによる祭りの後のようだった。

    小学校の教室では、松倉さん本人も攻撃された。
    松倉さんが嫌いな女子たちは、わざと松倉さんに聞こえるように「田丸さんはちゃんと学校に行ったのに合格したエライ人」と口にし、クラスメイトの携帯にはブログで読んだのか「松倉は、小学校ズル休みしたのに、中学校ズルズル落ちたバカ」という中傷メールが回覧された。
    松倉さんは結局、すべり止めの私立中学にも不合格になり、公立中学校に通うことになった。松倉さんをいじめた同級生の女の子たちも同じ公立に入学し、松倉さんは中学に行っても、
    「ズル休みしてズルッと落ちた」
    と執拗に中傷され、最終的には不登校になった。

    小学校を休んだくらいで、ここまで酷く中傷されることはない。もちろん中傷する方が悪い。
    しかし、私は中学受験前に小学校を休むことには強く反対する。

    親が子供に小学校を休ませる気持ちはわかる。中学受験に真剣になればなるほど、直前に猛勉強させたくなる。
    特に合格ライン上スレスレにいる子の親は真剣である。だから1月になると子供が小学校ですごす時間が無駄に思えてくる。学校で一日7時間拘束され、中学受験とは関係ない簡単すぎる授業を聞かなければならない。
    いまさら言うまでもないが、小学校で習う内容と中学受験の問題の難しさは桁違いで、小学校の勉強が草野球なら、難関中学受験は大リーグでダルビッシュの球を打つようなものだ。中学受験は進学塾で難問の解き方を教わらなければ絶対に合格しない。
    甲子園をめざす高校球児は、大会前は練習漬けになる。オリンピック直前の選手は時間をすべてオリンピックの準備のためにあてる。中学受験に一生懸命になっている親にとって、中学受験はわが子の人生を決定する真剣勝負だから、最後の一ヶ月は起きている時間はすべて中学受験のために使い、家や塾で入試に即した勉強をした方がいいと考えるのは、当然の成り行きだろう。

    しかし、学校を休まないことはルールである。
    ルールに違反し、子供が学校を休むように親や塾が仕向けるのは行き過ぎだし、ルールを破らざるを得ないような中学受験熱は困ったものである。
    ルールを破ることは、子供を一種の「グレーゾーン」に落とすことである。ルールを破ることで、子供はモラルに反する「うしろめたさ」を感じる。そのうちだんだん「うしろめたさ」は感じなくなり、ルールやモラルに無神経になる。
    こんなモラルに欠けた人間は、まわりから尊敬されず軽く見られ、ひどい時には中傷される。松倉さん親子がパッシングを受けたのも、ルールを破ることを広言し、モラルの隙を突かれたからである。モラルに欠けた者に対して、人は過剰に攻撃的になりやすい。逆に道徳的に正しいオーラがある人は、どんなに物静かでも攻撃されたりはしない。

    それから、小さなモラルの破綻は大きな破滅を導く。「これくらいいいじゃないか」という軽い気持ちが、痛いしっぺ返しを食らわせる。
    たとえば中学受験前に学校を休んだ子が大人になった時に、小学生の時ルールを破りモラルに反した悪い手癖が、あらぬところで再燃しないとは限らない。
    大人になって経済犯罪で捕まる人はたいがい、真っ黒な極悪人ではないが、ルールを破ることに慣れ、モラルに無神経な人である。
    経済犯は経済に疎い一般人の目から見て、たとえ数年間懲役食らった人に対しても、イマイチ悪いことをしているようには見えない。ホリエモンがどうして刑務所に入っているのか、理由がよくわからない人も多いと思う。
    経済犯では、たかがモラルやルールだと思って軽い気持ちで破ったら、実は法に抵触していたという悲劇が起こる。子供が企業で働くようになり経済犯になり、罪の意識を持てない罪で刑務所や拘置所に入った時、母親の「ちょっとくらい学校を休んでもいいわよ」という、ルール意識に欠けた言葉が頭をよぎるのではないか。ズルしたらズルッとこける怖さを味わってからでは遅いのである。

    子供が小学生・中学生・高校生のうちは、正しいこと悪いことの区別がはっきり分かれた、白黒がハッキリした世界に生きてほしい。小6でグレーゾーンの味を覚えるのは早過ぎるし、将来思ってもみない形で破滅する可能性もあるのだ。


     

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