難関私大を受験するのは、社会が得意な人が多い。
と同時に、英語が大の苦手な人も、これまた多い。
高3・5月の全統模試は英語45、国語64、世界史74、世界史だけは全国トップクラスで、英語は中2レベルからやり直さねばならないほど悲惨、そんな高校生はたくさんいる。
彼らの世界史の知識はかなりのもので、イギリスの戦後の首相の名前を、アトリー・チャーチル・イーデン・マクミラン・ヒューム卿・ウィルソン・ヒース・ウィルソン・キャラハン・サッチャー・メージャー・ブレア・ブラウン・キャメロンなどと自慢げに諳んじる。
だが、そのイギリスで話されている言語である英語はからっきし苦手で、首相を英語で何というか尋ねてもわからない。歴史の知識はブラックホールのように吸収するのに、英語の知識は『キングダム』の函谷関のように脳が拒絶している。
そんな受験生は、放っておくと世界史の勉強ばかりする。世界史の過去問は第一志望の早稲田の全学部だけでなく、慶応や上智の過去問も積極的にやる。
だけど英語の過去問は第一志望の早稲田ですら手を付けなくて、「やったら?」と勧めても「自信がなくて・・・」と及び腰になる。
難関私大は英語の配点が高く、英語で決まる。社会に時間と興味を費やすのは戦略上不利なのはわかっている。ましてや直前に新しい問題集を手当たり次第にやるなんて論外だろう。入試は教科書から出題されるわけで、大学の問題作成者は教科書を参照しつつ問題作成するわけだから、教科書をじっくり掘り下げた方が理にかなっている。
だけど、英国の点数がある程度あれば、受験直前に、社会の新しい問題集を片っ端からやるのが絶対に良い。
難関私大の社会は、「高校生クイズ」で、出場高校の生徒が、ネットとか本とかで手当たり次第に知識を吸収し、本番に備えようとするようとする。同じ本ばかり繰り返していたらクイズ王にはなれない。テレビ収録本番前には、詰めて詰めて詰めまくるはずだ。世界史・日本史の直前勉強法も、それと同じことだ。
たしかに、歴史のやり過ぎは良くないのは承知。歴史に時間使い過ぎて、英語や古文に支障が出たらたいへんだ。
だが、早慶や難関私大を受けるくらいだから、簡単なことばかり繰り返す勉強は退屈だ。だったら問題解きまくったほうが楽しい。
ゲームだって新しいゲームの方がやり甲斐があるだろう。歴史が得意な人は1週間に1冊ぐらい新しい本をバンバンやればいい。得意教科だから時間はかからない。
もちろん、やり過ぎには注意だ。
ヒマラヤ山脈への登山は、八合目からが厳しい。登山は7000m級の山より、8000m級の山は段違いに難しいという。8000mを越えたら酸素濃度は海面の3分の1である。エベレストの頂上付近には、カラフルな登山服を着た150体以上の遺体が、白い山肌に放置されている。
難関私大の世界史・日本史も、8割以上を取るのは難しい。残りの2割は難問奇問珍問で、10割めざすのは時間と労力の無駄である。
とくに歴史が好きな人は、歴史の勉強に没頭してしまい、英語・国語がおろそかになる。目標はあくまで8割。英語の方がただ、9割以上取りやすい。
世界史や日本史を8割から9割へ上げるのは、英語を8割から9割へ上げる時間と労力の100倍必要だ。また英語嫌いの受験生は、英語を避けて世界史や日本史の「楽しい」勉強に逃避する傾向がある。くどいようだが、難関私大は英語で決まる。
ヒマラヤ山脈の山の頂上に登るには、八合目の壁を超えるのが不可欠だが、難関私大の世界史・日本史の勉強では、9割・10割を狙うのはナンセンスだ。8割でいい。
ここでちょっと矛盾した言い方になるけれど、難関私大歴史で怖いのは、8割でいいと考えていると、実際、6割ぐらいしか取れない。10割を意識してはじめて、8割が狙える。
8割でいいと言っておきながら、二枚舌のようで恐縮だが、重箱の隅をつつくような姿勢、「完璧主義」な心意気が、私大文系の社会には必要なのである。
このバランスが、もう、とても難しい。
結論。難関私大の入試本番直前2か月からは、世界史・日本史については新しい問題集を使いまくるべきだ。勉強時間の科目別比率も、英語:国語:社会を3:2:5ぐらいにしていい。勉強時間の半分を歴史に注ぎ込んだほうがいい。直前の社会は「詰め込み教育」がふさわしい。
ただし、難関私大の問題傾向に合った本と合わない本がある。問題傾向が研究されていない、ピントのずれた本には、絶対に手を出してはならない。
ピントが合った本なら、東進の世界史・日本史の一問一答。一問一答は東進のものが唯一無二だ。早慶に出そうな問題がズラズラと並ぶし、軽いコラム的な説明もあって飽きない。直前の世界史・日本史のマストアイテムである。
一問一答と並行して、Z会の『世界史・日本史100題』と旺文社の『世界史・日本史標準問題精講』の2冊は押さえておきたい。この2冊は問題もさることながら、解説文の用語が出題される。解説が宝の山だ。
あとは早稲田を受験するなら慶応の、慶応なら早稲田の過去問をやればいい。早稲田と慶応では同じ用語や人名が出題される。難関私立を受けるなら、第一志望以外の大学の過去問には積極的に当たってほしい。
新しい問題集へ果敢に攻めれば、知らない用語人名が山ほど出てくる。だけど「これ知らなかった、畜生」と叫んだ瞬間、間違った歴史用語はクッキリ頭に記憶されているはずだ。記憶するには間違えて悔しい思いをするのが一番だ。アンビバレントな心理だが、間違った瞬間「やられた!」と悔しいふりはしているが、心の中では笑っているはずだ。俺にはできると。世界史日本史の勉強にトランスすると、難問を解けなくても、爽快な敗北感をおぼえる。難問は勉強の射幸心を煽る。
ここで、一つ忘れてはならないのは、知らない用語が出てきたら、教科書や山川の『世界史・日本史用語集』で、掲載されているか確認することだ。知らなかった用語や人名が、教科書の脚注の片隅に出ているのがわかる。(ときどき、どこのも掲載されていない難問があるのはご愛敬だが)。で、そんな用語をマークすれば、まだ入試問題や問題集に出題されていない、歴史用語や人名があるのがわかる。マーカーが引かれていない箇所こそ、入試に出題される可能性が高い。
教科書・用語集をただ漫然と眺めているだけではダメ。こういうアクティブな勉強こそ「教科書で学習する」というのである。