相撲の世界は、いまだに八百長があるという噂がある。
貴乃花親方の日馬富士暴行事件での度を越えた協会への反抗は、八百長を弟子の貴ノ岩に強要したモンゴル人力士たちへの怒りがあるという。
私にはその真偽はわからないが、もし八百長があるとするなら、ガチンコ力士が八百長力士に対して強い憤りを持っている感情は十分理解できる。自分は本気でやってるのに、ズルして勝ち星をカネで買う行為は許しがたいし、また集団で隠蔽された時の胸の苛立ちはいかばかりか。
中学生を教える塾にも「八百長」をやっている塾がある。中学校の定期試験の過去問を集め、生徒にやらせている塾である。
学校の先生の中には、定期試験を使い回ししている人が案外多い。過去問をやらせる塾はそこを狙う。特に国語のテストは先生ごとにクセがあるため、当たった時は大きなアドバンテージになる。
塾の中には各中学校の先生の転勤先まで調べ、前任校のテストまで収集するCIAみたいな行為までやっている。
また「80点成績保障! 達成できなければ授業料返金します」という広告を見かけるが、こういう塾は何が何でも基準点をクリアしないと収入減になるため、手当たり次第過去問を集め生徒にやらせる。もし効果があれば見せかけの達成感に保護者も生徒も騙される。
中学校の定期試験の点数は内申点に直結する。こういう不正が内申点という公的文書に反映されていいものだろうか。真面目にガチンコで定期試験を受けた子と差がつくのは不公平ではあるまいか。
塾が中学校定期試験の過去問やらせば、塾に通わない子はどうなるのか。過去問やらせる塾の生徒の中には「俺、塾で配られた3年分の過去問持ってるぜ。欲しいだろ〜」と見せびらかす悪質な子が出てくるかもしれない。過去問対策は悪差別を助長し、ただでさえ「カネ払って勉強教えるところ」と揶揄される塾業界への世間の目は冷たくなる。
塾には「情報収集力」があるというが、中学校の過去問を収集する行為に情報収集力というカッコいい言葉は使えない。単なる不正行為である。
中学生が真面目に試験に挑んでいるのに、一方では定期試験過去問丸暗記という塾主導のカンニング的行為がなされるのは絶対におかしい。
貴乃花親方は現役時代からガチンコで八百長に一切手を染めなかったというが、他の八百長力士に対して激怒しただろう。あのかたくな仏頂面が示している。ガチンコで定期試験頑張る中学生も、過去問に手を染めない塾の先生も、貴乃花と同じ怒りを抱いている。
中学校定期試験の過去問をやらせる行為はドーピングである。生徒の「真の学力」を破壊する。
中学の定期試験過去問に頼った勉強法では、高校では通用しない。定期試験過去問で内申点を嵩上げして高校に合格できたとしても、十中八九落ちこぼれる。モヤシが成長しないのと同じ。
だが困ったことに、親や本人は高校で成績が下がった責任を高校や高校の塾の先生に押し付ける。「中学の塾の先生は面倒見が良かった」と。成績落下の悪の張本人は中学の塾の先生なのに。過去問で積み上げた「フェイク学力:」は剥げる運命にある。
中学校で過去問をやらせる塾に通った子の、高校でのカルチャーショックは極めて大きい。
まず定期試験丸暗記させるような塾は高校であまり存在しないから、中学の時ほど定期試験の点数が取れない。「何かおかしいぞ」と疑問に思う。
絶望的なのは模試だ。模擬試験はテスト中に考えねばならない。模試は暗記したことがそのまま出題されるわけではない。頭を使う。考えることなく、ただ記憶したことを神に写す中学校の定期試験とはまるっきり違う。
模試ができなければ当然入試問題もできない。中学校過去問に頼る塾は、生徒から思考力の足腰を根こそぎ奪っているのだ。
中学校定期試験過去問を丸暗記することは、ドラえもんのアンキパンと同じ、一瞬にして外に出てしまう。蓄積しないし応用はきかない。生徒の将来を見据える指導者なら、中学校定期試験過去問は強く拒絶する。目先の点で生徒の将来を奪いたくないから。
まともな親、真の学力を子どもに授けたいと考える親は、中学校の定期試験の過去問をやらせるような「せこい塾」に通わせたりしない。取り繕ったフェイク学力が、高校で大学で社会で役に立たぬことは百も承知だからだ。
そして過去問をやらせる講師は、指導力不足を卑怯な手で取り繕おうとしている。私塾を作るなら、中学の定期試験過去問なんてセコい下請け根性丸出しのことやってないで、もっとオリジナルの教養蓄積に役に立つ楽しいことがあるでしょ?と思う。
過去問やらせる塾は零細塾が多い。目先の成績上げねば飯が食えない。ちっぽけな金銭欲のために安易に過去問に手を出し子どもの将来をスポイルしてると言われても仕方がない。
真面目な塾は、中学校定期試験の過去問をやらせるような八百長でフェイク学力を伸ばしたりしない。ガチンコで試験に臨む。ただ、ガチンコでやると決めたからには、八百長な他塾より濃い稽古がいる。ズルをする人間には負けられないのだ。
生涯八百長しなかった貴乃花のような、愚直で真直ぐなやり方でいきたい。